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あたしが見ている後姿は大きいもので…。

本当は、初めて見たものじゃ、なかったかもしれない…。




後ろ姿





朝、早く音楽室に来て、練習しようかな?って、来た。

やっぱり、誰もいない。

一人で楽器を出して、吹こうとする。

ガラッ

ドアが開く音がして、振り返ってみる。

『あ、先生おらへんー?』

『いない…けど…』

『せやったら、待っとこー』

部屋に入って、椅子に座る男の子は…

『俺、佐藤成樹っちゅーんや!よろしゅうになぁ!』

それが、この佐藤成樹との出会いだった。



莉奈―、莉奈―!」

ニィって笑って手を振るのは、シゲだった。

「あ、シゲ。」

「また朝練しとったん?」

「まぁね!」

朝早くて、日差しが強い。

「あかん、もう眠いわぁ…」

あくびをしながら言うシゲ。

「あ○びちゃん、出てくるよ?」

「なんや、そりゃぁ。ってか、大丈夫や。すぐに戻ると思うさかいな…ふぁ…」

またあくびをしてる。

「眠そうだねー」

「ぁ、まあな…」

「何?何かあんの?」

「別に、何もあらへんけど…」

シゲは…何か隠し事をしてる…。

暫く見てきたから、少し、変なことがわかる。

「ふーん。」

あたしは、もう、聞くのをやめた。

「なぁ、莉奈ー」

「んー?」

「3月暇かー?」

「ぁー、うん。一応、ってか、多分。」

「よかったら、試合来ぃへん?」

「いいけど、どこであるわけ?」

「福島。」

「無理。」

「何や、即答かいな。嫌やわぁ、シゲちゃん莉奈が来ぃへんかったら、力の半分も出せれへんわ~。」

「そんなことはありません。ってか、そうだったら、今までどうだったってのよ。あたし、まだシゲの試合見たことないんだから。」

「今回はの話や。今回は。」

「ったく…」

何か、こんなシゲを見てたら、案外、子供っぽい一面もあるのかな?なんて思ってみたくもなっちゃうよね。

友達に聞いてみたら、サッカーしてるときは、めちゃくちゃ大人っぽいってか、真剣そのもの、って感じらしい。

今はその欠片もないわ。

何か、サッカーしてる時とは違うのかもね。

「まぁ、いいよ。頑張って行く。」

「マジ!?ホンマ!?」

「はい、マジ。はい、ホント。」

「よかったわー。めっさ嬉しいで、俺。」

シゲが本当に嬉しそうに喜んでるから…つい、あたしまで嬉しくなっちゃったじゃないのよ。



約束をしてから、シゲは前よりもっと話しかけてくれるようになった。

いつのまにか、あたしはシゲのこと…好きになってた。

いつからか…なんてそんなのわかんないよ。

でも、気づいたら好きになってたの。

好きになって、シゲのこと、知れば知るほど遠くなって行く気がして怖かった。

あたしはいつまでも…シゲの背中を追っかけるだけかもしれない。



あと…二日。

あたしは、何とか親に福島に行く許可をもらった。

「あ、莉奈!」

「んー?」

「明後日やな。」

「うーん。」

「暫くおるんやろ?福島。」

「そりゃあね。せっかくなんだし。」

「何や?元気ないなぁ。何かあったんか?」

シゲが覗き込んで来る。

「何でもないよ。」

「ホンマかぁ?」

「本とだって、気にしないでよ!」

本当は、何でもないなんてことは、ない。

あたし…なんかね、怖いんだ。

シゲが遠くに行っちゃいそうで…その現実を受け止めることが出来ない気がして…怖いんだ。



出発当日。

ついに、この日が来た。

楽しみ…だけど、少し不安。



「あ、莉奈!おはよーさん。」

「おはよ。」

シゲと駅で会う。

「ねぇ、シゲ…」

「何や?」

「それって…ユニフォーム?」

「そやで!関西選抜の藤村成樹っちゅーんは、俺のことや!!」

「関西…?シゲ…藤村って…?」

「今の俺は、東京の佐藤成樹やない、関西の藤村成樹なんや。」

「東京選抜じゃ…なかったの…?」

「せや。」

「風祭くんとか、水野くんたちには!?言ってないの!?」

「言ってへんよ。どうせ、このトレセンで会うと思うさかいな。」

「そっ、か。」

あたしもシゲも言葉につまる。

沈黙がつづく。

あんまり気にしてなかったけど、昨日シゲに言われた事を思い出した。

『明日、関西に行ってから、福島行こうで!』

と。

あの時は、ボーっとしていたから、軽く流した。

あれは、こういう意味だったんだ。

莉奈…?」

「へ?あ、何?」

「落ち込んどるん?」

「え?」

シゲは鋭いな、あいかわらず。

いつも、あたしが変わったことに一番最初に気づくのはシゲ。

莉奈…悪かったな。」

「ううん。気にしないでよ。」

「そか。」

何となくシゲが大きく見える。

あたしが縮んだ?

シゲがどんどん遠くに行ってしまいそうで、怖いよ…。

行かないで、シゲ…

あたし、やっぱりシゲが好きなんだ…。



「着いたで、莉奈。」

「あ…うん。」

あたしは寝ていた。

朝が早かったせいかな?

「藤村やん!」

「おー、ノリック。おはよーさん。」

「うん…。って、誰なん?その子。」

「ん?あー。」

蒼井莉奈…です。」

「僕は吉田光徳。ノリックでえぇよ!よろしゅうにな」

つい何となくだけど、敬語を使ってしまった。

なんでだろ。

「あー、ノリック、莉奈、行くで?」

「おう!」

関西選抜の…練習場?

どこへ行くのかは、知らない。

見知らぬ土地で、あたしはまた、シゲの後ろ姿を追うことしかできない…。

あ、あとノリックも、ね。



あたしたちは、関西から福島へと飛んだ。

「うっわー!大っきいね、ココ。」

「せやねー。」

今気づくと、関西選抜の人たちと一緒に来させてもらってるって、いいのかなぁ?

一人、関西弁じゃないのも、なぁ。

莉奈!何しとんや?」

「え?」

「はよ、来いや。」

「うん。」

気がつくと、シゲもノリックも先へと進んでいた。

莉奈ちゃん、莉奈ちゃん!」

ノリックが立ち止まって、手招きしてる。

少し走るようにして、急いでノリックのもとへと行った。

「え?何?どしたの?

「なぁ、莉奈ちゃん。えぇこと教えたるわ。」

正直興味を持った。

シゲは、一人で先に行ってる。

「藤村のこと!莉奈ちゃんて、藤村のこと好きやろ?」

「え!?」

真っ赤になる。

ノリックは、ニッコリ笑ってる。

「せやろ~?顔真っ赤やから、当たっとるんやろ?」

抵抗しても無駄、かな。

もうバレちゃってるみたい、だからうなずいた。

「やっぱりな!で、どうなん?藤村とは。」

「ど、どうって…」

「こんなトコまで来るくらいやろー?両想いで付き合っとん?」

ノリックはあたしの反応を多分楽しんでる。

「両想いなんかじゃないよ。付き合ってもないし。あたしの…ただの片思いだよ。」

少し気分が沈む。

「ふーん。」

ノリックは、興味なさげにそう言った。

「せやったらさー…僕と付き合わへん?」

「は…!?」

「一目ぼれ、って信じとる?」

「一目ぼれ…?」

「せや。一目ぼれやねん、僕。」

「あ、あたしに?」

「せや。」

ノリックは、さっきとは違って笑ってはいない。

本気でまじめな目をしてる。

「あ、返事は試合の後に聞くさかい。それまでに考えとってな。ほな、行こか。」

そう言って、ノリックは再び歩きだす。

あたしは、試合会場に行っても、いいの?

シゲに会って、シゲと話しても、いいの?

ノリックに…悪い気がして仕方がない。

って言っても、ノリックとあたし、今日初めて会ったんだよ?

それにノリックは、あたしがシゲを好きなことは知ってるはずなのに…。

ねぇ、どうして?

真剣に考えないと…いけないよね。



試合会場に行くと、人はまだ、あまりいなかった。

でも、関西選抜のユニフォームに、金髪、ピアス。

シゲだ…。

一目でわかる。

声をかけようかとも、思ったけど、やめた。

シゲが、ゴールのポストにどんどんボールを当てていて…すごいよ、シゲ。

何か、こうして見ていたら、シゲがどんどん遠い人に感じられる。



「あれ、シゲさんじゃないですよね?」

声を聞いて、“シゲ”と言う言葉に反応する。

声がする方向を見ると、そこには、東京選抜と書かれたユニフォームを着た、風祭将がいた。

水野くんもいる…。

他の人は?

「おーい!藤村。サルが呼んどるで?」

そう言って、関西選抜の人がシゲを呼びに来た。

「サルが?」

振り返ったシゲに、風祭くんたちが驚いてる。

あたしはもう、見るのをやめた。

遠く感じるようになって、すぐだけど、シゲを見るのが少し…怖い。

あたしはボーっとして用意してもらった部屋へを帰った。



夕方となって、そろそろ夕食の時間となる。

ノリックとシゲに誘われた。

「おー、莉奈!こっちやで!」

シゲに手招かれた。

が、その前にある角で人にぶつかった。

「ご、ごめんなさいっ!!」

「いや、大丈夫か?」

相手は、迷莉奈柄の帽子被った男の子。

「ほ、本当にすいませんでした。」

もう一度頭を下げる。

「いや、俺も悪かったたい。俺の方こそ、すまんかった。」

「あれ?カズさんじゃなかとですか?こぎゃん所で何しよっとですか?

「昭栄!こんバカ!今まで何しよっとね!それに、もっとトーン下げんか!」

「す、すんません、カズさん」

“昭栄”と呼ばれる人は、すごく身長が高い人。

莉奈?何しとんねん?」

シゲに呼ばれて急いでいたことを思い出す。

「あ、本当に、すいませんでした!」

簡単に一礼をして走って行った。



『カズさん、あの子誰とですか?』

『俺に聞かんで欲しか!』

『す、すんません。』



「ごめん、おまたせ」

「ええって。それより大丈夫やったか?」

「うん、大丈夫、大丈夫!ごめんね、時間かけちゃって。」

「ええよ。」

その後は、3人でとりあえず食事を済ませた。



「あ、蒼井さん!」

ふと、声をかけられ振り返る。

「風祭くん!それに、水野くんも…」

「お前、なんでここにいるんだ?」

「え?シゲに…誘われたから…」

「そっか。」

「将―!」

「翼さん?」

東京選抜の…誰かかな?

「さっきから気になってたんだけど、ソイツ、誰なわけ?」

あたしはちょっとムッとした。

蒼井さんだよ。桜上水の。」

「桜上水?あんた、東京の人だよね?あdったら、どうやってココに来たわけ?選抜通さないと来れないはずなんだけど?」

「関西のマネージャーやで、莉奈は。」

「シゲ!?」

「シゲさん!?」

「よぉ、また会うたな。あ、姫さん久しぶりやな。」

「金髪、あんたは何しに来たわけ?コイツが関西のマネージャー…使えるの?」

「……」

「ねぇ、どうなわけ?」

「あ、あの…あたし、コイツとかアイツとかそんな名前じゃないんですけど。」

「プッ…」

え!?え?わ、笑われたの?なんで?

「ごめん、面白いね、アンタ。」

「ホンマや、えぇキャラしとるわ、莉奈。」

「え?」

「ごめん、ごめん。僕は、椎名翼。東京選抜のDFで4番。飛葉中。」

「桜上水2年の蒼井莉奈、です…」

莉奈、ね。僕のこと翼でいいからさ。あ、ごめん。もういかなきゃ。またね」

ココにきて、新しい友達が出来た。

沢山の人と仲良くなれた。

よかった…よね。



「シゲー!!」

今日はいよいよ試合の日。

シゲはスタメンだ。

振り返ったシゲはすごく、大人っぽく見えた。

「試合…頑張ってね。」

「おう。任せとき!俺が勝ってきたるさかい!」

「うん、あたしも、応援するから!」



「なぁ、藤村。お前、莉奈ちゃんのこと、好きやろ?」

「は?何いきなり言い出すねん、ノリック。」

「ホンマやろ?」

「ノリックの方こそ、莉奈の…」

「僕のことはえぇねん。」

「ノリック?」

莉奈ちゃんの気持ち…知ってしもうたさかい…もう、えぇねん。」

「ノリック…」

「この試合勝つんやろ?ほら、莉奈ちゃんおんねんから。頑張らな!」

「せやな。」



「シゲ!お疲れっ!すごかったよ!おめでとう。」

「おおきにな。」

あたしはこのとき、シゲはサッカーするのが好きなんだ、と思った。

サッカーをしてる時の顔、凄く好き。



莉奈。好きやで?俺。俺、莉奈の事好きやから!」

ちょっと遠くの方から、叫んでいるシゲが見えて…

「シゲ…あたしも大好きだよっ!!」

叫んでやった。

スッキリ、するんだね。

莉奈…」

気づくと、シゲがあたしの前に立っていた。

「し、シゲ?」

ギュっと抱きしめてくれた。

「好きやから。マジで。」

「うん。」



あたしの追いかけている背中は大きくて遠いもの。

だけど…

大丈夫だよね?シゲ。

頑張って追いつくよ、あたし。

シゲが大好きだから。

頑張って走るよ。

一緒に、並んで歩けるように。