いつも下向いて歩いてた。
必死に前髪伸ばした。
顔色伺われないように…。
そんな日の『あたし』に―――――
バイバイ。
上を向いて、歩こう。
3月。春だ。
「あぁ、サン…」
「は、は、は、はいぃっっ!!」
「あ、プリント…今日提出なんだけど。あるか?」
「は、は、はいっ!!」
上手く喋れない。
あたしの嫌いな所。
早く、学校なんて終わればいいのに…
早く…早く放課後にならないかな…。
『あたしは、変わってやる!変な人に見られたっていい!
あたしは、変わるんだ。 』
もう使われなくなった旧校舎。
今ではもう、裏庭に放置してあるだけ。
だから、あたしはよく、放課後、家になんて帰りたくないからよく、ココに来る。
決意表明なんかを壁にして、いつも存在感をあらわそうとしてた。
普段、教室なんかでは目立たない。
目立たないことを好まない…わけではないのだ。
寧ろ、好きなんだけど、そんな雰囲気になれない。
そんなクラスなんだ。
だから、あたしは…2年生、変わろうと思う。
2年…B組ねぇ。
…水野、竜也。あたしの嫌いなヤツ。だって、アイツ目立ってるし…
でもまぁ、あたしも今日から目立つんだけどね。
髪の色は、赤。化粧だって少々…。そんなオバサンほどはしてないさ。
ザワザワと言った雰囲気に、視線。ちょっと、自分が凄い、と思った。
はっきり言って、これが地だった。髪だって元は赤だったんだし。元に戻しただけだ。
「ねぇ!」
女の子の声がして、振り返る。
「あなた…転校生?」
この時期、転校してくる人は少なくない…。だからと言って…あたしは少しショックを受けた。
「ん?違うよ。。あたしの名前。」
「え、サン!?本当に!?」
「本当。髪の色、染めたわけじゃない。元に戻しただけだしね。それだけのこと。」
あぁ、もう友達なんてできなかったりして。こんな頭…もうちょっと、オレンジとかにすればよかったかな…?
「サン!」
さっきと同じ声。あの女の子たちかな?
「友達になろーよ。あたしたち、サンがこんなに喋る人だなんて知らなかった!」
「え…と、友達?」
今更になってこんな恥ずかしがりやな性格が出てくるなんて、ね。
「うん!あたし、小島有希!」
「ウチは、。よろしくね。」
「う、うん。デ…ス。えと、よろしく。」
仲良くなれた、といえばなれた。といっても、声をかけてくれた二人のおかげなのだけれど。まぁ、頭、髪の色も赤でよかった、と思えるようになった。
「さん、だよな?」
「はい?」
「俺、水野竜也。って、知ってるよな?去年も同じクラスだったし。」
「あ、うん。。よろしくね。」
席が隣だったのは、なんと、水野竜也だった。去年から同じクラス、というのは嘘じゃない。本当だ。
でも、話して見ると違った。サッカー部の先輩がどーだとか、ちゃんと愚痴も言ってる。ただの、人気者だけじゃなかった。普通の、普通の男の子だった。
あたしでさえ、笑顔にドキッとしてしまうような…そんな男の子。
「!」
「有希、。どしたの?」
慌てた様子でやってきた有希と。
今では二人とも何の遠慮なしに喋れるようにまでなった。
「大変っ!どうしよー…」
「何?どーしたの?」
「……有希、言ってっ!!」
あたしには何のことだかわからなかった。そのとき、有希に耳打ちされた。
「 」
「えぇ!?ホント!?」
「う、うん…」
吃驚した。驚くしかなかった。驚いた、といったら、少し失礼かもしれないけど。
『が告白された。』
「そっか、。」
「うん。」
「んで、誰?」
これはが耳打ちしてくれた。
「 」
「え…ホントに?」
「うん…本当だよ。」
あたしも信じられないよ。まさか。ね。
『水野…竜也』
でも、今気づいたことがあるんだ。
あたしも……水野竜也が好きだ。ってこと。
伝えたい、そう思った。
ウジウジしてた。
いつも下向いて歩いてた。
前髪で顔隠してた。
そんな日のあたしに
さよなら、するためにも。
「何だよ?話って。」
「水野竜也クン…」
「何?」
「好き、です。」
言った、あたし。ずっといえなかったこと。言ったんだ。あの、決意表明をした、旧校舎に呼び出して。
これで、ウジウジするあたしとも、バイバイ…できた、かな?
「……!?」
「と付き合ってるのは知ってるけど、それでも好きだから。」
「…えと、ちょっと待て?」
「え?」
「俺、とは付き合ってないぜ?」
「へぇ………ってえぇ!?」
あたしの早とちり?違うよ。ちゃんと聞いた……?
『、告白した』
あ…あたしが違うんだ。本当はは告白されてない。告白したんだ。水野竜也に。
「告白はされたけど、ちゃんと断った。好きな人がいたから。」
「そ、そっか。ゴメン、ね。」
幸せな日々が続いてた。
水野クンと隣になってから。
ずっと楽しかったんだよ?
知らないかもしれないけど。
本当に楽しかった。
水野クンの笑顔が眩しかった。
生き生きしてる水野クンが羨ましかった。
「好きなヤツがいる…」
もう、戻れない。あの頃に。バイバイ。もう一度、黒く髪を染めようかとも思った。本当は赤くすることでしか表せなかったんだ、あたしの存在。少しでも知って…ほしかった。
「ソイツは」
何かどうでもいい、って感じだ。もう、聞きたくない。でも、もう逃げられない。
「昔髪が黒くて、前髪がスゲー長かった。それでもって、いつも下向いてた。スゲー気になってた、俺。でも、話すとおとなしい、とかそんなイメージじゃなかった。本当のソイツがわかって嬉しかったんだ。だから、一緒に居て、新鮮だったし、楽しかった。」
思われてるんだね、その人。少し、羨ましくなった。
「ソイツは今、俺の目の前に居て、さっき告白され…た。だから、返事。俺も、好き、だから…」
嘘だと思った。
夢だと思った。
信じられなかった。
「……ありがとう。」
そういわれたとき、涙が零れ落ちた。何か、あふれるものがあった、あたしにも。
変われた。
変わることができた。
下を向いてあるいてた。
あたし…バイバイ。
さぁ、もう、すぐだ。
キミの場所まで。
上を向いて、歩こう。