夏休みも終われば、もう九月、新学期は始まりました。





中学生日記

一年生、九月





―!来いよ、こっち。」

「うん。」



今は、LHRの時間。

もう間近に迫った文化祭をどうするかグループで話し合う、らしい。

あたしのグループって言ったって、いつものメンバーだし。何もいつもとは変わらない“日常”の中の一部。



「何すっかー?」

そう言ったのは練二。

案は出さなければいけないけれど、何も浮かばない。

文化祭なんて初めてだし、どんなことをするのかいまいちよくわかってない。

「ねぇ、劇とか面白くない?やってる方とかも力入るし、練習とかやればやるだけ上手くなるし!ねぇ、どうかな?」

「いいんじゃね?俺は別に賛成。」

「ちょっと、一馬!別にってどういうことー!?わかんないなぁ。」

真田一馬のことを『一馬』と呼ぶのは男子のほとんど、あたし、そしてこの柳原真由子。

聞いた話によれば真由子は一馬の事が好き、あたしと一馬を引き離そうとしてる、らしい。

でもあたし達には、この前の肝試しだって、体育祭だって・・・たくさんの行事なんかを一緒にしてきたんだから、大丈夫だよ・・・ね?









結局あのあと、あたし達のクラスは劇をすることになった。

劇の内容はまだ決まっていない。けどみんなの話がわかる『白雪姫』とか『シンデレラ』とか。そんなのにしようか、って意見は出てた。

「一馬ー!ねぇ、一緒に帰れないー?私ね、一回一馬と一緒に帰りたいって思ってるんだけど!いっつも一馬ってちゃんと帰ってるでしょ?ね、一馬?たまには私と帰ろうよ?ねぇ!一馬ってば!」

真由子・・・恐るべし。ちょっと大変なヤツを敵に回したかと思う。

さっき、一人で喋るだけで、『一馬』って名前を5回も言ってしまうものだから・・・つい驚いて口が開いてしまった。



「悪ぃ・・・今日も俺、と帰る・・・約束、してんだ。だから、またな。」

「えー!?本当に!?」



約束なんて・・・してないよ。それは真由子から逃れるために言った言葉?

それとも・・・本当に?



「あ、悪ぃ、な。」

「えー。わかったよー。ねぇ、一馬!変わりにアド教えてよ!メールしようよ?」

「え?あ、あぁ・・・」



急な展開。一馬も意外だったみたい。



「わー!ありがと!今日中にメールするね!じゃあ、またね!」

「あー・・・。」



一馬は生返事をしてた。多分もう、とりあえず返事しとこう、ってそんな返事。


「ったく、何なんだよ、アイツ・・・」

「一馬もさぁ。嫌なら嫌って言った方がいいよ。」

「まぁ、一馬の場合ヘタレだからな・・・」

「だよね・・・」

「おい、お前ら!」



一馬のこと、笑ったら怒った。ぷぅって頬膨らまして。

だから練二や麗奈と一緒にもう一度笑ってやった。





「役、決め?」

「あぁ、今日の担任の授業使わしてくれるんだって。劇って時間かかるだろ?だから。」

「あ、わかったわかった。じゃあ、5時間目ね。」



一馬はおう、と言って男子の輪の中へと入っていった。

ふぅ、とため息が自然と出たのにはあたしの体が感じ取っていたのだろうか、柳原真由子の存在があった。



「あーら、さん。こんにちは。相変わらず仲がよろしいこと。」

「イヤミか、いい加減にすればいいのに。」

「何よ。あなた。なんで一馬があなたなんかと・・・」

「まぁ・・・それは一馬の勝手でしょ。」

「ふん。いいわ、さん。あたし、今月中に一馬くんの事、落とすから。」



は・・・と言葉が出てこなかった。真由子は勝ち誇った顔をしてあたしを見下ろしていた。



「いいわよ。勝手にすれば、バーカ!」



乙女じゃないよな、あたしって。不意にそう思ってしまうのも自分で納得が出来るほど。

結構ショックうけちゃうかも。



でも・・・

一馬は真由子と付き合っちゃったりしたら・・・

あたし、乙女っぽくないことよりずっとショックうけちゃうんだろうな。

どうなるんだろ、ホント。

まぁそれでも、一馬の事は一応信じてるからね。





『一馬くんぇ。



初☆メールだネ♪柳原真由子デス。登録よろしくね(●^o^●)真由子ゎね、ぃっでも暇してるからー、メールしてね!!よろしくね☆★☆



真由子ョリ』



「うわー、ヤバイ・・・」

「うん。ちょっと気合入りすぎじゃない?」

「俺・・・やっぱ返事返さなきゃダメ・・・かな?」

「まぁ、そりゃ・・・返さなかったら、後で・・・なぁ・・・」



真由子は昼休みにメールを一馬の元へ送ってきた。

世間一般的とは言えないような感じ。

あたし・・・あんなん無理だわ、絶対。

メールのキモさは・・・負けを認めとくわ、なんてね。



「頑張ってよ、一馬。次の時間にさー、真由子がシンデレラで一馬が王子様なんて事にならないようにね。」

「・・・やべ・・・すっかり忘れてた。」

「バカねぇ、一馬も。」

「そうそう。可能性十分だわ・・・」

「しかも劇の案出したのって・・・」

「あぁ、アイツだろ。」

「俺にどうしろって・・・」



一馬は結構参ってるみたい。これじゃ、ダメじゃん、真由子。

一馬はヘタレだし、ナイーヴだし・・・大丈夫なんだろーか?ねぇ?





「じゃあ、演目はシンデレラということに決定します。」

今日の午後、5時間目は理科の授業。

担任は理科の担当なわけで、授業時間が余っている、という理由で1時間文化祭のための時間に使ってもいい、と言ってくれた。



早速話し合いをして、シンデレラをすることになった。

嫌な予感がして仕方がない。

さっきの昼休みの言葉が忘れられなくって・・・もう、だめだわ。重症?



「じゃあ、まずどうする?シンデレラから決めるか、王子から決めるか?」

「真由子、王子役の人、一馬くんじゃないと嫌だからー、王子から決めよー?」



・・・あのヤロウ・・・なんだよ、真由子のヤツ。

自己中もいいとこだっての、ホントイライラしちゃうわ。

どうする?って一馬に聞いても・・・

「別にいいんじゃねぇの?」

って冷たい返事が返ってきただけだったし・・・。

あたし、かなり落ち込むかも。



広い机を前にしてあたしは黒板へ白いチョークで決定事項を書いていった。

板書は麗奈がやってくれてる。



「じゃあ、王子役・・・誰か立候補・・・?」

こんな質問誰が手挙げるんだろ?

世間知らずの目立ちたがり屋?

それともただフザケル遊び人?



―――――責任感じちゃう・・・アイツ?



「どうせなら、柳原の希望にそって・・・一馬でも・・・」



誰だよ、ホントにそんなの言い出したのはっ!

・・・アイツ・・・後でシメちゃるでぇっ!

なんてシメれるかっての。

あたし、一応乙女なんで〜・・・なんてバカか、あたしは。



「小針ー・・・?」

「何だよ、別に誰でもいいじゃん?どうせなら、そこの学級委員コンビでも・・・」

「え!?何でよっ、小針っ!」

「柳原は、一馬が好きなんだろ?思いっきり三角関係じゃん?」



きゃーなんて悲鳴があがる。

女子はコソコソ楽しんでるし、真由子は乙女チック全開で恥ずかしがってる。



「じゃあ、投票にすればいいじゃん。」

「一馬・・・あんた・・・いいの?」

「何がだよ・・・」

「あたしと、なるかもしれないんだよ?」

「別にだから、とか柳原だから、とかってそういう決め方するのは嫌だし。俺だけで決めたらやっぱいけないだろ。」

「一馬・・・でも。」

「クラス全員で決まったんだったら、俺はそれで納得するし。」

「・・・わかった」

「他、シンデレラでも何でも立候補するヤツ、いる?」



珍しくこの場は一馬が仕切ってくれたわけだけど。

どうしよ・・・あたしこのままじゃヤバイ気がする・・・。

ってか、何であたしまでシンデレラの候補にあがってるわけ!?



「恐ろし・・・」

「何がだよ、全く。さっさとしろよ。」

「・・・わかってるわよ!」





「じゃあ、開票するからな。」



投票はもちろん王子様は一馬になったわけで、あとの残りはシンデレラ。

シンデレラの候補は、真由子、あたし、それともう一人。

堤 一月・・・。

クラスで一番かわいいって言われている女の子。

一月ちゃんとはあたし、あんまり話したことないけど、いい子。

少なくとも真由子よりは。


「えーっと、まずは。次・・・柳原。次・・・堤・・・・・・」



どんどん開票は進む・・・。

ん?


「何で、アンタが開票してんのよ?」

「いいじゃん、誰でも?なぁ、一馬―?」

「別に、いいんじゃね?」

「だからって・・・なにも小針にしなくても・・・」

「言いだしっぺ、俺だもん。」



小針はさっきこの投票を提案した人物で・・・

真由子のいとこ。

はぁ・・・先が思いやられるわ。



「小針、まだ?」

「待って。まだ。」

「小針・・・まだー?」

「終わったっての。最後は、柳原。」

「マジ?」

「当たり前。マジに決まってるっての。」

「小針・・・嘘ついたりとかしてないよね?」

「バーカ。俺がそんなことするか、っての。」



 14票

柳原 14票

堤  12票



あれま・・・一月ちゃんが、ねぇ。

まぁ、噂によれば性格悪いって聞いたことだけはあるんだけど。事実かどうかは不明。



「一緒・・・か。じゃあ、どうしよ?」

「もっかい、と柳原でとる?」

「そうしよっか。」



小針がまた提案してくれた・・・。

けど、次に20と20にならないよねっ!?



大丈夫だったわよ・・・

おかげであたしの心身はボロボロかも。



 19票

柳原 21票



だって。2票差、かぁ・・・。

一馬とちょっとシンデレラ一緒にしたかった、なんてね。





「一馬・・・?」

「マジかよ・・・?」

「マジ、でしょ。」

「ほら、また真由子が見つめてるよ。」

「やめてくれよ・・・。」



一馬は真由子とやることに不満をもっていた、らしい。

どうしよ・・・あたし・・・

すっごい胸の中・・・モヤモヤしてる。

ホント気持ち悪い・・・。







―?大丈夫?」

「亜弓・・・」

「どしたの?」

「何でもないよ。あたし、真由子に負けちゃった。」

「うん、そうだね。惜しかったよ。」

「うん。何でだろーね、すっごい悔しいの。」

・・・それって、」



ヤキモチ?


あたしがヤキモチなんて・・・やくわけないじゃない。

だって、一馬とはなにもないのに。



ううん。なんともないわけじゃないよ。

あたしは・・・あたしは・・・一馬のこと・・・


「じゃあ、王子は真田、シンデレラは柳原、ってことで。」

「終わったかー?」



役決めはこれで終わったわけじゃないけれど、やっぱり、ショックだな。

真由子に負けたのは別に、どうでもいい、ってわけじゃないけど、まだ大丈夫。

でも、一馬と真由子のシンデレラって、見たくないな。





「いいの?、ホントに監督兼道具責任者なんて。」

「いいの!」

「でも・・・」

「大丈夫だよ、麗奈。」

「一馬くん、本当に真由子とシンデレラやっちゃうのかな?」

「多分ね。一馬は、やるって言ったら、やるヤツだしね。」



一馬なら大丈夫。

一馬なら・・・



!」

「あれ?一馬・・・何で?」

「何で、って・・・。」

「真由子と・・・シンデレラ、頑張ってね。」

「あ、あぁ・・・。」



複雑な心境だわ。

一馬は一馬で真由子で大変そうだけど。

まったく、誰が真由子に入れたのか調べてやりたいわ。

調べないけど。



「明日、あいてるか?」

「明日、って土曜?うん、別に暇だよ?」

「よかったらさ、サッカー見にこねぇ?」

「嘘!?試合?」

「おー。練習試合だけど、英士も結人もさ、に会いたがってるからさ。」

「行くー!ね、麗奈とかも誘ってもいい?」

「あぁ。」

「ありがと!」



明日も会える。

学校のない、明日、土曜日は本当なら一馬には会えない日なのに。

嬉しいよ。



『本当に?一馬くんが誘ってくれたの?』

「うん!だからさ、麗奈も一緒に行けないかな?」

『明日はー、大丈夫かな?ちょっと、待ってて!練二に聞いてくるから』

「はーい。」

麗奈との電話はいつもこんな感じ。

たいていは一馬の話。

あとは学校のこととか。

『午前は大丈夫だけど、午後はお稽古入ってるんだー。』

「そっかー。試合午後なんだ。」

『じゃあ、無理だ・・・。ごめんね、。』

「ううん、いいよ。じゃあ、また月曜日ね!」

『バイバイ。』



電話は切れた。

いつも思うのは、ちょっと寂しくなる、ってこと。



RRRRR RRRRR

あれ、電話だ。



「もしもし?」

『あ、?』

「一馬・・・。」

『明日のことなんだけど。』

「あ、明日あたし一人になっちゃった。亜弓は都合悪いみたいだし、練二も麗奈もお稽古あるんだって。」

『そうなんだ。で、英士のいとこが来るんだ。』

「いとこ・・・?」

『あー、ユンって言うんだけどさ。来て、英士んち寄ってみんなで飯食おうって話しになってんだけど、も来れるか?』

「うん。大丈夫だよ。」

『サンキュ。明日、10時にんち迎えに行くからな。』

「うん。わかった。じゃあ、また明日。」



また明日、という言葉が嬉しくて、今日は少しだけ早く寝た。





「行って来まーす!」

「気をつけろよ。」

「はーい。」



朝、午前10時。

玄関前、一馬は・・・

いない。



時計がずれてるわけじゃないし、何でかわからないけど、一馬はいない。

いつもだったら、ちゃんと待ち合わせ前にはここに立っててくれるのに。



RRRRR RRRRR

携帯電話が鳴っている。

「もしもし?」

『あ、ちゃん?俺、結人!』

「結人くん?どうしたの?」

『一馬なんだけどさー・・・』

「え?真由子・・・」

『だから、今英士が迎えに行ってるから、待っててな。』

「う、うん。わかった。」



結人くんの話によると、真由子が休日にもかかわらず一馬の家に押しかけ、一馬は身動きが取れない状態らしい。


多分、真由子も試合見に来るんだろうなー・・・。




「遅くなってごめん!」

「あ、英士くん。久しぶり。」

「うん、久しぶり。」



英士くんが来たのは10時24分。

試合の時間、大丈夫かな?



「試合、間に合う?」

「大丈夫だよ。試合開始は12時半だし。」

「そうなの?」

「あれ?聞いてない?一馬から。」

「うん、聞いてないよ。」

「これだから一馬は。まぁ、とりあえず急がなくて大丈夫だから。」

「うん。」



!」

「一馬・・・」

「今日、ほんとにごめんな。」

「いいよ。大変だったんでしょ?」

「そ。柳原がさ、いきなり来たからさ、どうにも出来なくて。試合がある、とかって行ったら見に来るだろうしさ。」

「あれ?そういえば真由子は?」

「帰ってもらったよ。」

「珍しい。」



真由子が素直に帰ったとは思えないけど、本当に珍しいわ。



いつの間にか時間は過ぎていって、もう夜。

今日の試合は一馬たちのチームが4‐0で勝った。

試合が終わってから数時間経ったけど、英士くんのいとこが遅れてるらしくって、結局辺りは真っ暗になってしまった。

でも、その間は4人で話が出来ていた。

嬉しかった、っていうのが本当の気持ち。



「英士―!」



「ユン・・・」

「英士!会いたかった!久しぶりだね」

「そうだね。ユン。」

「結人も一馬も久しぶり!」

「おー。」

「ユンも元気そうだな!」

「もちろんだよ。あれ?誰?」

「あ、俺のクラスメイト。」

「一馬の?」

です。」

ちゃん?僕は李潤慶。韓国人だよ。」

「え?そうなの?」

「うん、そうだよ。」



全然韓国人に見えない。

日本語も上手いし・・・。



「日本語、上手なんだね。」

「うん。日本に住んでたからね。」

「そうなんだー。」





それからは、みんなとも話して、ユンくんのコトも色々聞いて、楽しかった。

英士くんの家に着いたのはもう夜8時になっていた。



「遅くなってごめんね、ちゃん。」

「ううん、いいよ。ユンくん、大変だったんでしょ?」

「まぁねー。」

「大丈夫?疲れたりとかしてない?」

「大丈夫だよ。ありがと、ちゃん。」





それから英士くんの家で晩ご飯ごちそうになって、みんなで話をしていた。



「え?じゃあ、小さい頃からみんな仲良しなんだ!?」

「あれ?その話、俺したことなかったっけ?」

「ないよ。一馬は学校に居たらサッカーの話、あんまりしてくれないもん。」

「そうだっけ?」

「そうだよ。」

ちゃんと一馬って仲良いんだ?」

「おー。」

「何かね、ユン。同じクラスで、学級委員で、いっつも一緒らしいよ。」

「いっつもじゃねぇよ!」

「いいじゃねぇかよ、一馬!こういうときぐれぇ一緒って言っとけば。」

「よくねぇって。」



それからちょっと沈黙が流れてしまった。

あたしは中々テンポが速くって話に入っていけないし。

ユンくんは英士くんのいとこで一馬とも結人くんとも顔見知りなわけ。

でもあたしは・・・正直一馬しか知らない気持ち。



ちゃん?・・・ちゃん?」

「あ、ごめん。何?ユンくん。」

ちゃんさー、彼氏とかいるの?」

「へっ!?」

「ユン何聞いてんだよ!?」

「一馬はちょっと黙っててよ。ねぇ、ちゃん彼氏いるの?」

「・・・い、いない、けど・・・」

「本当に!?やった。ねぇ、僕とさー・・・」



ちょっと、待ってよ。

ユンくん・・・今日あたしたちは初めて会ったんだよ?

早すぎるよ。

それにあたし、彼氏はいないけど・・・でも・・・

一馬が・・・



一馬の方をちらっと見ると、一馬はちょっと怒った表情で少し、あたしと目が会うとすぐに逸らしてしまった。

ユンくんはワクワクしたような目でこっちを見てるし・・・



「僕とさ、付き合わない?」



来ちゃった・・・

ついに、この言葉を聞いてしまいました。



「で、でも・・・」

「まぁ、今日会ったこととかは気にしなくても大丈夫だよ!」

「それでも・・・」

「あ、今日もう遅いし、帰ろうぜ?」

「結人、帰るのー?」

「おう。」

「まぁ、それにさんの家が一番遠いんだから。」

「そっかー。じゃあ、僕送って行こうか?」

「え!?いいよっ!」



ちょっと、必死になって言い過ぎたかな?

何か、最近あたし、動揺してばっかり。



「いいよ、俺が送るから。」

「一馬・・・」







結局あのあとはユンくんとメールアドレスと番号を交換して終わった。

もう、びっくりしちゃったよ、ホント。

学校じゃこんな風に弱みじゃないけど、弱くなって話せないし。



「一馬―?」

「何だよ?」

「何、怒ってんの?」

「悪いかよ。」

「ユンくんのこと?」

「そうだよ。」



一馬が・・・冷たいね。

寂しいね。

悲しいね。

わかんないよ。

ユンくんも、一馬も。



「何で、そんな怒ってんの?」



あたしがそう一馬に聞くと一馬は立ち止まった。



「それは、俺が・・・俺が、のこと・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「やっぱ、なんでもない。」

「えっ・・・」



ちょっと期待しちゃった、あたしがバカみたいじゃん。



「まぁ、いいよ。一馬機嫌なおしてよー・・・ねぇ?」

「無理。」

「じゃあ、さっき言いかけた事言いなよ。スッキリするでしょ?その方が。」

「別にいいって。」

「もう、いい加減にしてよ!」

「・・・え?」

「いい加減にしてよ!もう、あたし何が何だかわかんない!一馬なんてあたしに何が言いたかったの?ユンくんだって何であの場で告白するの?英士くんだって、結人くんだって!・・・・・・あたしだって・・・」

・・・」

「もう、いいよ!帰るっ!」

「おい、っ!!」



一馬が何か叫んでたけど、聞こえないふりをした。

だって、一馬がわかんないんだもん。

きっと・・・聞いたってわかんないよ。



「ただいまー。」

「おかえり、。」

「あ、ねーちゃん。何かスゲー電話あったよ。何か『真田』ってやつから。」

「・・・あっそう。ほっといていいよ。」

「でも、ねーちゃん!帰ったら電話して、って言ってたよ。」

「知らない。」



弟の恒太。

今小学5年生の男の子。

・・・ってそんな事はどうでもいい。

一馬のバカ。

バカ。

バカ。

バカ。

一馬のバカ・・・。



「あたし、そろそろ行くから。いってきます。」

「・・・いってらっしゃい。気をつけるのよ?」

「・・・はーい。」



朝、眠れなかった。

早く目が覚めた、って事じゃない。

昨日の夜から一睡も出来なかった、っていう事。

情けない。

『一馬』っていうたった一人の人に・・・あんな風に言われたから、って・・・。



「おはよ、ちゃん。」

「ゆ、ユンくん!?」

「ごめんね、急に。昨日ヨンサに家の場所聞いちゃった。」

「ヨンサ?」

「あ、英士のコトだよ。」

「・・・そうなんだ。」



英士くんがあたしの家の場所をユンくんに教えた。

教えてもらったユンくんは、あたしの家に来た。



「昨日は・・・ごめん。僕のせい、だよね。」

「何で、そんな事・・・。」

「僕のせいだから・・・。僕がふざけたから・・・一馬とちゃんが気まずくなっちゃったでしょ?」

「大丈夫だよ、ユンくん。一馬と気まずくなったのは、あたしのせい。あたしが勝手に怒ったからだから。気にしないで。」

「・・・でも、」

「大丈夫。ごめん、そろそろ遅れそうだから行くね。」

「あ、うん。」

「バイバイ、ユンくん。」



背を向けた。

背中に感じる視線。

優しく、寂しげな・・・視線。

今日は決着の日だから、ごめんね、ユンくん。



「おはよ、。」

「亜弓・・・。おはよ。」

「・・・どした?真田くんとケンカでもした?」

「・・・・・・・・・。」

「あちゃ、図星、ってわけね。」



亜弓の話はそれから覚えてないけど・・・。

ただ、一馬って名前が出るたび、反応してた。



・・・。」

「一馬?」

「昨日は・・・。」

「昨日はごめんね。」

「何でが謝るんだよ・・・。」

「朝、ユンくんがうちの家に来たよ。」

「そうなのか・・・。」

「ユンくんも謝ってた。・・・もう『ごめん』なんて言葉は聞き飽きたよ。」

「・・・えと、じゃあ・・・。」

「あたし、『ありがとう』がいいな。」

「・・・は俺の事、許してくれる?」

「当たり前だよ。一馬が悪いわけじゃないんだもん。」

「ありがとう。」



こんな仲直りの仕方ってあるのかな?

きっとあるんだよね。

一馬とあたしがそうだったように。

・・・大丈夫だよ。

ユンくんも一馬も悪くないんだ。

ごめんね、一人で怒っちゃって。

そう言ったら一馬も言うよね、きっと。

『俺も“ありがとう”がいいな。』

って。

経験した『ケンカ』と『仲直り』。

きっとこれから、またこういうこともあるけど、『ありがとう』って言って仲直りしたい。

そう思った、夏の暑さが残る9月のある日。