さて、今年もやってきました、暑い真夏の季節が。
中学生日記
一年生、七月
授業を受けている、この静かな空間に沢山のセミの鳴き声が聞こえてくる。
今年もそんな季節がやってきた。
下敷きを精一杯仰いで風を自分に送ろうとして、みんな必死だ。
そんな暑さの中でも一人、ダラーっともダラけずに、真面目に授業を受けてる輩があたしの隣に約一名。
「ねぇ、暑くないわけ?」
「そりゃぁ、普通に暑いけど。」
「なんでそんなに真面目に授業受けれるかなぁ?」
「だって、もうすぐ期末テストだろ?」
「・・・期末テスト!?」
小声で喋っていたとはいえ、期末テストの言葉には驚く。
大声をあげて、先生、クラスメイトからも視線をうけてしまった。
「うそ、もうそんな時期だっけ?」
「そうだって。だからも真面目に授業受けろって。」
「でもさー・・・。」
「でもさーじゃないだろ。」
「そうだけど・・・。」
「頑張れって。今日、アイス奢ってやっから。」
「ホント!?頑張っちゃおうかな〜?」
多分、最後の一言で調子のいいヤツ、なんて思われてるんだろう、と思う。
でもそれであたしはいいのだ!
あたしはあたしの人生があるから、アバウトにゆっくりと進んでいこうと思ってます。
「暑い・・・。」
「そだな。」
午前の授業もなんとかアイスの力で耐え、ようやく終えた。
ゆっくりとお弁当を食べながらホノボノと涼しい場所を求めていた。
「暑いねぇ、―。」
「そだね、亜弓。」
「ったく、お前らダラしないな!」
「何言ってんの、練二!あたしらに暑さは大敵なのよ。」
「まぁ、いいじゃない、練二。実際に練二も暑いでしょう?」
「そりゃそうだけど・・・。」
「ね?暑いのよ、みんな。」
「さっすが、麗奈!なんか考えてることが違うね・・・。」
「そんなことないよ。」
いつものメンバーでいつもの場所。
校庭の木の木陰なんて場所は案外涼しいもので、あまり人は多くない。
練二、亜弓、麗奈、一馬、そしてあたし。
周りには沢山の支えてくれる人がいて、暖かい場所があたしにはある。
今の場所は寧ろ暑いけれども、それは別。
あたしたちのクラスにはあたしも、みんなも誰もが支えあっていくことが出来る。
そんなクラスだと思う。
「行く・・・か?。」
「一馬、どこ行くの?」
「アイス・・・。いるんだろ?」
「いる!行く、行く!」
「いいなー、!あたしも欲しい。ねぇ、一馬くん!奢って。」
「嫌。」
「ケチー!!」
「まぁ、行ってくんねー!」
「んー・・・これ!」
「じゃあ、これな。」
「ありがとー、一馬!」
今、あたしたちは涼しい、涼しい売店にいる。
学校の中といっても、売店というだけあって、結構品数は豊富。
こうしたアイスもちゃんとあるのである。
「一馬は買わないの?」
「もう買った。」
「早いなぁ、相変わらず。」
「まぁな・・・。」
「あたしは迷って決められない派だからねー。」
「そうなのか?」
「うん、とことん迷っちゃう。」
「そ・・・か。」
「一馬冷たい・・・。」
なんとなく、今日はいつもより一馬が冷たく感じてしまった。
なんでだろう?と考えても、あたしの思いつく限りでは理由なんて浮かばない。
あたしは、一馬本人じゃないし、わからないのは普通だと思う。
それでも何か理由が知りたくて、知りたくて・・・。
こんな想いを
どう表せばいいのだろうか?
「んー、アイス美味しいねー!」
「そうだな。」
「・・・・・・うん。」
やっぱり、一馬はどこか変で、どうしたらいいかわからない。
こんな想いを
いつまで持っていればいいのだろうか?
「ねぇ、一馬―?」
「ん?」
「今日、何か一馬、変だよ。」
「そう…か?」
「まさかとは思うけど…」
一馬が恋、なんてね。
ヘタレだし、それはない…よね。
「いや、ちょっとな。」
「何?ちょっくら、さんに話してみなさいよ。」
「…なんでもねぇっての!」
「あ、そっか…。ゴメン。あたし、先に戻ってるね?」
一馬だから…何?
ヘタレだから…何?
何か違うの?
一馬の悩みを聞いちゃいけないの?
なんだか、一馬はあたしを避けていて…。
「あ、!おかえり。真田くんは?」
「ん?あぁ、一馬?何か用あるってさー。」
「そうなの?あ、アイスちゃんと奢ってもらったの?」
「うん。」
「いいな〜!ねぇ、麗奈ちゃん、あたしらも買いに行かない?」
「いいよ!練二くんは?行く?」
「いや、俺はここにいるわ。」
「じゃあ、何か買ってくんねー!」
「何があった?」
「え…?」
「お前嘘つけねぇヤツだろ?バレバレ。」
「ははっ、練二は凄いねー。そんなトコまで気づくなんて、さ。」
「だてにお前のこと見てねぇっての。」
「そ…っか。」
何か、練二に気づかれたら、どうでもよくなってきて。
わけがわかんなくなって。
何故か涙がこぼれた。
「練二、あたしじゃ力不足なのかなー?」
「何で?」
「一馬…あたしに何も話してくれない。何も、教えてくれないんだよ?お前に話したって何にもなんない、お前なんかに話したくない。そう言われてるみたいで怖いの!どうすればいいか、わかんないの!」
練二はあたしの頭をポンポンと叩いた。
「それで、いいんじゃね?そりゃぁさ、一馬にだってには話せないことだってあると思うぜー?例えば、好きなヤツのこととか。もし、が一馬のコト好きだったら、一馬には言わねぇだろ?」
「うん…」
「そういう感じだと思う。だから、は役に立たない、とかそんなじゃないからな。大丈夫!安心しろっての。お前は一馬に必要とされてんだから、一馬の横に黙って居れば、それで一馬にはじゅーぶん!もったいないって!」
「うん。ありがと、練二。」
「さー!顔洗ってこいよー?」
「うん!行って来る!」
あたしは、元気になった、かな。
一馬のコト、何もわかってなかったから、わかった気分になって、少し嬉しい。
だから、一馬…あたしのコト、許して、ね?
「うわっ、やべぇ、やべぇ!俺、マジで塾行き…」
「家庭教師にすれば?」
「それは、常に部屋がきれいじゃないと無理だろ。」
「練二くんの部屋、凄い汚いの…」
「そりゃ、ご愁傷様です。」
「一馬、お前出来たんかー?」
「ん?まーな。いい、かも。」
「そかー。」
一馬とあたしはアレから話してない。
って言ってもまだ2日前のコトだし、可笑しくはないかもしれないけど。
それでも、あたしにとってはすごい、すごい長い2日間だったよ。
「―?」
「ん…?」
「ちょっと来いよ。」
「…へ?」
一馬の口からあたしの名前を聞くのは何だか懐かしく思えた。
「う、うん。」
そうしてあたしたちは、陽射がよく当たる中庭へ向かう。
「あ、あの…さ、ごめ…な。」
「は?」
「ごめん・・・なっ!!」
「え、う、うん。」
「俺さ、担任からお前ら仲良すぎて付き合ってるんじゃねぇか、って言われてさ。」
「は!?あの担任はそんなこと言ってんの?」
「で、そうじゃねぇ!って言ったらさ・・・、その証拠みせてみろー!ってさ。で、暫く離れてた、わけ。」
「…そうだったんだ…。」
「ごめんな、言えなくて。」
「ははっ、何だ!そんな事だったんだ!あははっ、はは…」
それから二人で思いっきり笑ってた。
久しぶりに向き合った一馬の顔は、夏の陽射に日焼けして、ほんのり赤かった。