嫌、だなぁ、この季節っていうかさ、ジメジメ感が・・・・。
中学生日記
一年生、六月
今年、という年になって、もう早半年が終った。
そして、六月といえば、梅雨の季節なのである。
毎日のように雨、雨、雨。
そんな日があたしにとっては耐えられないのである。
「がーずーま゛―!!」
「な、何だよ。」
「ジメジメするー。気持ち悪い・・・・。」
そして、あたし、はとにかくダレていた。
勿論みんなはみんなでそれなりにダレている人はいた、けれども、あたし以上にダレている人は、いないだろうと、自分でも思う。
「気持ち悪いって、大丈夫なのか?」
少し間をおいて、一馬が話しかけてきた。
大丈夫じゃない、そう返事すると、ふーんと返ってきた。
「一馬はさ、このジメジメ平気なわけ?」
「別に平気だけど、嫌い。」
「何で?」
「サッカーしにくいし、雨でサッカー出来ねぇじゃん。俺、もっと上手くなりてぇのにさ・・・。」
こうやって、サッカーのことを一番に考えている一馬を見ると、サッカーが本当に好きなんだな、と微笑みたくなる。
でも、一馬がサッカー出来ないでいることを、少し喜んでしまうところがある。
だって、普段は一緒に帰れない一馬と一緒に帰れるのだから。
「おい、。」
呼ぶ声に反応して、重くなった体を持ち上げる。
あたしを呼んでいた人物に視点をあわせる。
横にいた一馬と共に。
「練二?何?」
「ちょっと、今日さ、暇?」
「うん、暇だけど?」
「話あるんだ。一緒に帰らねぇ?」
練二・・・コイツ、草加練二は体育会の時にはやけにあたしにグチグチネチャネチャ言ってきていたくせに、今頃はなぜかあたしとよく話もするようになった。
でも、寧ろあたしはそれを歓迎している。
友達って沢山居ることはいいと思うから。
「いいよ、待っててね?」
それだけいうと、練二はさっきまで居たグループの輪へと入っていったのである。
練二を見ているとき、視界に入った一馬の顔は少し不機嫌そうな顔をしていた。
「にへへ、、真田くん!」
「亜弓!」
「浜松・・・!?」
亜弓があたしたちに話しかけてきたときの、一馬の表情・・・。
よっぽどの吃驚ようだ。
何でお前がこんなところに・・・とでも言うかのような表情をしていた。
「ねぇ、。今日ね、部活休部だってー。」
「え!?何で?」
「先生は出張で出掛けてるらしいし、先輩は期末考査のことでいのこりが多いんだって。それに・・・」
「それに?」
「この雨。どこも部活やんないし、は真田くんと帰るんじゃないの?」
そう言った亜弓はニコニコとしていたけど、あたしも一馬も俯き気味だった。
そんなあたしたちを見て、亜弓もニコニコしていた表情を変え、どうしたの?と疑問をぶつけるような顔をした。
「ううん、あたし今日は練二と帰るんだ。話があるんだってー。」
「話・・・!?」
「うん・・・?」
「ちょっと、真田くん!来て!」
「お、おい!?浜松!?」
亜弓は、一馬の腕を引っ張りながら、走っていく。
あたしは亜弓の握った一馬の腕を見て、ズキンと心を揺るがせた。
亜弓の握った手は、悪気があるわけではないのに、あたしをイライラさせた。
「どういうこと!?草加とが帰るって!?」
「知らねぇよ、俺は。・・・関係ねぇ。」
「いいの?あの二人。草加は、が好きなんだよ?」
「・・・はぁ!?ってか、お前なんでそんなわかってるわけ?」
「・・・ん?えっとね、乙女の勘よ」
「・・・嘘くさ・・・。」
「冗談よ!やめてよ、本気にしないの!でも、多分・・・」
あれから、授業中もずっと話さないまま、一日は過ぎた。
バイバイって手を振りながら心の中で涙を流した。
あたしは何で今日、一馬と帰らないんだろう?って疑問を持ちながら。
「・・・ぁ。なぁ。なぁ!?」
「え?ごめん、何?」
「大丈夫か?お前、今日上の空だぜ?」
「うん、ごめん・・・。大丈夫だよ。」
いつもと違うあたしに練二も戸惑ってるはずだ。
二つ並んだ傘は雨を弾く。
いつまでも止む様子のない雨・・・。
一馬に会いたい。
さっきまで会っていたはずなのに、何でそんなことを思うの?
あたしの心の中は、一体何を思ってるの?
「なぁ、。」
「・・・何?」
「俺・・・」
立ち止まった練につられて、あたしも立ち止まる。
正面から向き合って練が口を開いた。
「俺、が好きだ。」
好きだ。そんな一言に動揺する。
いきなりな上に、こんな気分の日。
「中一だけどさ。まだ入学したばっかで子供だけど真剣なんだ。だから・・・さぁ。返事とかは、いつでも・・・」
「ごめん。」
練二の声を遮りながらも言った。
ごめん。その言葉だけがいつまでもその場に響いていた。
次の日・・・。
情けないことにあれからあたしは風邪をひいた、らしい。
そのわりには元気。
練二とのあの出来事があってから、まだ気持ちは暗いまま。
これから、どう練と接していけばいいのか、わからないでいるんだ。
RRRRR RRRRR RRRRR RRRRR
電話独特の音。
先日買ったばかりの携帯電話を取り出して着信を見る。
『浜松 亜弓』
なんだ、亜弓か・・・。
なんだ、なんてどこから出てきたのか知らないけど、少しガッカリした。
「もしもし?」
『あ、もしもし。?』
「うん。」
『今日、大丈夫?学校休んでるしさ・・・』
「大丈夫だよ。心配かけてごめんね・・・。」
『ううん、いいの。あたしは。あ!今日連絡用のプリントとか課題とか色々と貰ったから持っていくね!』
「ありがと、亜弓。」
プープーっと電話を切ったあとの電子音が、寂しさの余韻を残す。
会いたい、会いたい。
ずっと願って、会いたいと・・・。
ピンポーン
家の呼び鈴が鳴って、母さんの声がした。
誰か人がきたらしく、どうぞ、どうぞ。なんて言ってるのが聞こえた。
時計を確認して、そろそろ亜弓が来るころかな?と考えた。
コンコン
「はい、どーぞ。」
「?お友達来てくれたから。」
「はーい。」
「・・・よ。」
「か、一馬!?」
「大丈夫・・・か?」
一馬が入ったのを確認すると、母さんはまた戻っていった。
そのままドアが閉まった音がした後から沈黙が続いている。
「どう、したの?」
「あ・・・、コレ・・・。頼まれた・・・んだ。」
「亜弓に?」
「・・・おう。」
俯き加減に返事をする一馬とあたしが同じ部屋に二人きり。
きっと、一馬も・・・妙に緊張している。
「わざわざ、ありがとう。」
「いや、いいって。」
「今日は、晴れ・・・てたよね?」
「ん?あぁ。」
「サッカーは?」
「あるけど・・・。」
「うそ!?早く行かないと!」
「大丈夫・・・だから、遅れるって言った・・・から。」
「でも・・・」
「いいんだって。」
今日はあたしの押され負け。
立場が逆転されてる。
わかった、そう返事したとき妙に胸の奥が暖かくなった。
なのに、どうしてあたしの目からは涙が溢れてくるんだろう・・・。
「・・・?」
「ごめっ・・・。ごめん、かず、ま。ごめっん・・・」
下を向いているにもかかわらず、視線を感じて泣くにも泣けない状態。
一馬に涙を見せるなんて・・・ね。
あれから一馬は何も言わない。
あたしは涙を堪えてる。
目にたまった涙は今にも心から溢れ、飛び出して行きそうだった。
「泣けば・・・、いいんじゃねぇの?」
突然の言葉にあたしも思わず顔をあげた。
「泣きたい時に泣いて、笑いたい時に笑って、怒りたい時に怒って・・・そうやってしなかったらいつするんだ?そうやって・・・、いつまでも自分の道を突き進んでいくのがってヤツ・・・なんだろ?」
そうなのかもしれない、いやそうだと思ってる。
あたしはいつまでも、誰に何を言われても自分の道を突き進むって、心の中で誓っていた。
一馬に言われて改めて気づかされた。
「一馬ぁ・・・」
さっき以上に涙が溢れてあたしじゃ耐えようにも耐えられない。
そんなあたしを見て、一馬は抱きしめてくれた。
押しつぶされるかと思うくらい、強く、強く抱きしめてくれた。
「俺が・・・いるから。」
「え?」
「俺がいるから。」
「・・・うん。」
「 」
俺がいるから。その言葉を聞いて、今までよりずっと安心できた。
最後の言葉は聞こえなかったけど、何となくわかった気がした。
暖かい、暖かい言葉だってこと。
そして気持ちが緩くなったあたしは大声で泣いた。
「ごめんね、練二。」
「俺こそ、ごめん。この前は急だったし・・・。」
「いや、いいって!」
「、次の日休んだだろ?だから・・・」
「あぁ、あれ?あれはあたしの不注意だって!気にしないで。」
「・・・サンキュ。」
「それともう一つ!」
「何だよ?」
「これからも仲良くしよーね!」
「・・・・・・あぁ。」
あれからというもの、あたしは練二にも正式に断ったし、また友達として第一歩を踏み始めた。
新しい気持ちで迎えた朝の光はいつもより気持ちのいい朝だった。