中学生活も始まって1ヶ月経って、新しい行事がやってきました。





中学生日記

一年生、五月





「かーずまっ!」

いつも通りあたしを受け止めてくれるのは、いつもコイツ。

真田一馬だった。

?」

普段のあたしは明るいとよく言われてる。

でも、そう思う人ばかりではない、ということも勿論わかっているつもりである。

「なぁ、。」

クラスメイトの男の子。

名前は確か・・・草薙練二くん・・・って言ったかな?

「何?」

「煩いんだけど、お前。」

微妙に心に傷がついた感じ。

たった一つの傷でも、あたしは引きずるタイプなのである。

「ご、めん・・・。」

それだけ言うと、草薙くんはそっぽ向いてまた友達と話を始めた。



五月ということもあって、中学校生活にも慣れ始めた。

だが、まだクラスの人たちとは溶け込めない人たち。

それがあたし・・・そして真田一馬。

でも、一馬はあたしとも仲良くしてくれてる。

本当はすぐに溶け込めるなじゃないか、っていつも思ってる。

それでもあたしは、それが怖い。

いつかクラスに一馬が溶け込んでしまったのならば、あたしの元から消え去ってしまうんじゃないか、って。

あたしは一人になんかなりたくないんだ。



。」

「えっ?」

「何ボーッとしてんだよ。大丈夫か?」

「う、うん。」



普段なら、強気なあたしのはずなのに、何今頃弱気になってんだろ・・・。

溶け込めないクラスの中で、学級委員なんてやっていけるというのだろうか?

いっそ、変わってもらったほうが・・・いつも思う。

それでも、あたしのプライドが許さない。

誰かに頼られてるって事が嬉しくて、いつも途中ではやめられないでいる。



「ほら、行くぞ。」

「行くってどこに?」



いきなりの一馬の言葉に少し困る。

前の話をまたボーッとして聞いてなかったみたいだから。



「次。移動教室だっての。ほら、早く。」



一馬はちょっとだけ顔を赤くしながら、言った。

クスッて笑ったあたしに、「何笑ってんだよ。」とまた赤くなっていった。

こんな一馬を見ると、可愛いな、って思ってしまうのが本心である。





「そういえばさ、もうすぐ体育祭だよな。」



移動教室までの道のりは少し長くて、それなりの会話は出来る。

学級委員のあたしと一馬は、次の行事についての話をはじめようとしていた。



「あぁ、そうだね。何かすることあったっけ?」

「スゲーあるっての。も覚えとけよな。」

「ごめんってば。ねぇ、何すんの?」

「競技に出るとか、そんなの。まぁ、他にもあっけど、俺も覚えてない。」

「一馬!あんたも人のこと言えないじゃん。」



笑い声が通っている廊下に響く。

歩いていた人たちが視線をあたしたちへと向ける。



キーンコーンカーンコーン



チャイムが鳴り始めた。

これからまた長い長い授業が始まる、その合図。



「やべっ、急げ!。」

「うん!」





あれから暫くたった。

体育祭の話題が出たあの日から。

もう体育祭も2週間後くらいに迫ってきた。

今日はようやく競技選手を決定する日。



ウチの学校は少し変わっていて、自分の好きな競技を一つ。

そしてクラス全体で参加する競技を一つ。

それから、正式な球技スポーツを一つ。

一人最低計3つは参加しなくてはならないのである。



「えっと・・・出たい競技を・・・」



あたしが少し小声で言い始める。

でも、誰も聞いてくれやしない。

あたしたちより強い立場に居るはずの先生はというと、今日に限って出張で学校には来ていないのである。



「・・・聞けよ。聞けよ!」



大きな怒鳴り声がして身体を少し振るわせた。

声の発信源は、一馬だった。

頭の上に?マークを浮かべながらも少し身長の高い隣に立っている一馬を見上げた。



「お前ら、やる気あるわけ?クラスでやる最初の行事なんだからさ、ちゃんとやろうぜ。」



一馬の言葉にクラスで、「そうだよな。」なんて言ったり頷いたりしたりする人が居た。

ちゃんと聞いてくれた。

あたしが言ったわけではないが、一馬が言ったことを聞いてくれたのが何故か知らないけれど、妙に嬉しかったのだ。



「ほら、みんな決めよう!まず・・・」



みんな、あたしの話もちゃんと聞いてくれた。

これも一馬のおかげなんだ、って思ってる。

嬉しくって嬉しくって涙が出そうになってしまったりもした。



二時間使って決めるから、休憩時間があるわけで・・・。



「よかったな。」



一馬からのボソッとつぶやかれた一言に、思わず笑みもこぼれた。

本当は一馬のおかげなのに、ね。

あたしはこういう一馬が大好きだ。



「ねぇ、一馬。」

「ん?」

「球技さ、何に出るの?」

「え、あぁ・・・サッカー。」

「一馬ってサッカー部だったっけ?」

「いや。」

「へぇー。もう決まってんだ?あたし、どうしよっかな。」

もサッカーや…れば?」

「え・・・でもあたし下手だよ。」

「いいじゃん、楽しむのが目的なんだし…。な?やろうぜ?」

「・・・うん。やってみる!」







「いいじゃん、楽しむのが目的なんだし。な?やろうぜ?」



そういった一馬の言葉いつまでも耳の中で響いていた。

あたしの気持ちはあの一言で随分と軽くなった気がしたのだ。

そしてあたしは心の中で、「ありがとう。」とつぶやいていた。







いよいよ本番の日を迎えた。

あれから暫くサッカー部の方にも練習として参加させてもらって、少しはルールとかわかるようになった。

やってみれば、サッカーも楽しくって、一馬と一緒にやってよかった、と思っている。

今日は本番で、どうなるかだってわからないような、日なのに、一馬は「心配しなくっても大丈夫だって。俺だって皆だって居るんだから。」なんて自信満々。



「俺だって皆だって居るんだから。」

一馬はいつだって、いいこと言うな、と改めて思う。

こんなトキの一馬は、強い。

照れないのは、一馬が思いっきり怒ってるトキ。

それと、自信満々のトキ。



「ほらー!一馬、行くぞっ!!」

「おうよ。」

「おい、。」



出たか、と心の中で言いながら、何よ。と返事をした。

草薙練二である。

最近知ったのだが、コイツもサッカー部でサッカーに出るらしいのだ。



「俺等のあし引っ張るんじゃねーぞ?」



真田なら大丈夫だとは思うけど、お前は・・・な。と草薙は続けて言った。

確かに、一馬なら大丈夫だとは思っていた。

だって、本当にうまいと思った。

初心者で、ろくにサッカーなんか見たことなかったあたしでもそう思った。

だから凄いんだと思っていた。

いや、過去形でなくって、思っています、という現在進行形。



「ファイトー!」

「オー!」



誰かが叫んだ。

ホイッスルが鳴り響いた。

始まりの合図だった。

女の子って参加者は、他にもいる。

あたしだけじゃなかったんだなー、なんてちょっと吃驚だった。

サッカーって女の子、あまりやらないでしょう?

だから・・・かな。













結果は、2−1だった。

あたしたちのクラスでは、めでたく勝利をおさめることが出来たのである。

1点目は、一馬が決めた。

強烈なボレーシュートだった。

2点目はというと、あたしが決めてしまったのである。

自分でも本当に驚いた。

だって、決められるなんて、思ってなかったから。

一馬の教えがよかったんだと、そう自分に言い聞かせてみた。



体育祭全体の結果はというと、学年2位という惜しくも1位をとり逃した。

クラスのみんなは楽しめたようで、いきいきとした顔をしていた。

勿論、あたしも、一馬も、みんな。



、よくやったな。」

「一馬・・・。」

「凄かったぜ、お前。」

「一馬だって、そうじゃんか!」

「俺は結構昔からやってっし・・・。でも、お前初めてだったんだろ?」

「そうだけど・・・。」

「やっぱ、スゲーよ。」

「ありがと・・・。」



その後は、一馬との話もなかったといえば、なかった。

というか、話す暇がなかった、という方が正しかった。



「おい、真田―!」



そう呼ばれた一馬は同じクラスの男子の元へと走っていったのだから。

ついに、一馬も溶け込んじゃったか、と淋しい気分になってしまったのだ。

嬉しいはずの空気の中に、たった一つだけ淋しさに耐えている空気があった。



「おい、!」



あたしよりも大きな声がした。

珍しく草薙が話しかけてきた。



「悪かった・・・な。」

「は?」



いきなりの申し出に何、コイツなんて思ってしまったことは誰にも秘密の事実。



「足引っ張らなかったもんな。寧ろ引っ張っちゃったの、俺だったし。ごめんな。」

「いいよ。」



素直に許せれたんだ。

珍しく、珍しく。

素直に謝られて、素直に返してすっきりした。



「ほら、一緒に話そうぜ?真田とか、みんなたまってっし。」



そう誘われた時、あたしだって・・・

そんな気持ちがあたしの頭をよぎった。



これであたしも少しはクラスに溶け込むことが、出来た。かな?

もし、そうじゃなくっても、これからまだまだあるんだ。

だって、まだじゃん?

あと2年以上残ってるんだ。

1ヶ月しか経っていない、まだまだ未熟な中学校生活。