新しい学校、新しい制服、新しい友達。

何もかもが新しくなる季節。

いよいよあたしの中学校生活が始まった。





中学生日記

第一章、一年生、四月





入学式。

毎年四月に行われる学校行事。

今年度の主役、つまり一年生はあたし達だ。

あたし達一年生は、5つの小学校から集まって一つの中学校としてこの野上ヶ岡中学校へと通い始めた。

新入生229名がきちっと並べられた椅子に座っている。

長かった式も終盤へと近づいてきた。

眠くなって、半分閉じかけている目を擦る。

『一年生は各教室の前に名簿がはってあります。自分の名前のある教室へ入っていてください。』

そんな放送を生徒会長がしたものだから、嬉しくなって一気に目が覚めた。

ガタッと椅子を引きずる音を立てながらあたしたちは退場した。



教室を目指して歩く人ごみの中にあたしもいた。

ただ、人が多すぎてどこに行けばいいのかわからない。

人ごみに流されたまま歩いていく。

1年A組というクラスにはってある名簿にはあたしの名前はなかった。

隣のクラスへ行くとあたしの名前があって、そのあたしの名前と共に目に入った名前が、“真田一馬”という名前。

どこか聞いたことあるようでない、あたしの目を引いた名前。

まぁ、いいか、と言い聞かせ黒板に書いてあった通り、適当な後ろの方へと座った。

一番窓際の席。

だって、空と、雲が見える席がよかったから。

隣には誰が来るかな?なんて気にしてなどいなかった。

ボーッと晴れた空を見て、雲を「あ、あれおじいさんっぽい」などと考えていた。

突然、隣でドスッと音がしたかと思うと、席についている男の子が居た。

男の子を見ていると目があった。



「・・・誰?」

「それ、こっちのセリフ・・・」

「あ、ごめん。」



目をあわせたままの二人は会話を続けた。

知らない人が隣に来ると、それなりに緊張してしまうってことはあった。



「あたしの名前はっての。宜しく。んで、アンタは?」

「真田・・・一馬。」



ピンッとすぐに来た。

さっきの名前だ、と。

真田一馬くんがこの子かぁ、と思った。



「真田一馬くんね、宜しく。これから長い付き合いになりそうだしねー。」



そう、長い付き合いになる、あたしの勘がなんとなくそう言った。

と、言ってもあたしの勘など滅多に当たることはない。

せいぜい当たるとしても、10回に1回ほどだと自分で思う。

今も何気に思ったけど、スッゴイ確率悪いな、と自分で言っておきながらも苦笑いしてしまった。



これがあたし、とこの、真田一馬との出会いだった。

運命なのかな?って考えたりもしたよ。

実際に信じてなどいないけど。

運命なんて、あたしは変えられるものだと思っていたから。

運命は変えられて、宿命は変えられないという法則がいつの間にかあたしの中では出来ていたのである。

そういうもんだと法則で思ってきた。



席は今のままで、ということになった。

先生によると移動させるのが面倒、ということだった。

1年生の教室は1階で、階段も登ることも少なくて一番楽な位置。

友達も沢山出来て、嬉しい限りだった。

・・・が、隣の席の真田一馬はまだまだ心を開いてはくれない。



「ねー、一馬ぁ―。」

「お前いつから一馬って呼んでんだよ・・・。」

「ん?今日から・・・かな?」



そんなこと聞いてねぇよ、とでも言いたいかのような呆れた顔をして、一馬は言った。

何でこんな無愛想なんだろ?と、何度考えたことか・・・。

何で休み時間の間、一人で居るんだろう?とも。

一馬は友達を作りたがらないのかな?と。



「ねぇ、一馬。」

「ん?」

「友達、作らないの?一人で居るの?」



よく、単刀直入に聞けるね、と友達に言われたものだ。

聞きたいことはちゃんと聞かないと!とあたしはそう思う。



「別に・・・。ちゃんと居るから。」

「ふーん。見たいなー。」



いきなり言った言葉に自分でも吃驚してしまった。

見たい?何で?って顔してる。



「別に、いいけど・・・。」

「ホントに?やった。いつ?いつ?」



そう言うと一馬は、少しクスっと笑っていた。

ちょっと最初くらいはイラッとしてしまうものである。





「何か、お前面白いヤツだな。」

「あたしは、“お前”じゃなくって、“”だよ。“”!」

「悪ィ・・・。」

「いいよっ。代わりにさ、名前で呼んでよ?」



あたしの場合、名字で呼ばれることをあまり好んではいない。

だから、名前で呼んでもらえる方があたしにとってはいいのである。



「え・・・あ・・・」

「ぷはははっ!!か、一馬可笑しすぎ!!」

「わ、悪かったな!」



女の子の名前、相当呼びなれてないんだな、と思う。

正直、すっごく可愛いと思った。

あたしは、こういう一馬のトコ、いいと思う。



「な、。」



さっきまであんなだった一馬が頬を赤く染めながらあたしの名前を呼んでくれた。

なんか一馬の性格が少しだけわかった気がした。



「んー?」

「ちゃ、ちゃんと呼べる、からな。」



うん、と大きく頷きながら笑顔で答えてやった。

そうしてあたしたちの一日は終った。







・・・と思ったのに、終ってなどいなかった。

寧ろ、これからまた始まる、と言ってもいい程だった。



「・・・学級委員!?」

「あぁ、そうなんだ。」



急の先生からの呼び出し。

急用だから、と言った先生に気をつかって、急いできたのはいいんだけれども、いきなり学級委員なんて話がきてる。



「それでだな、真田と一緒にやってもらいたいんだが・・・」

「一馬・・・とですか?」

「あぁ、頼んだからな。真田にはもう連絡はとってあるから。」



早っ!なんて突っ込みを密かに入れつつも、はーいと、返事をしておいた。

あたしの心の中には、一馬とだったら・・・という気持ちがあった。

だから、OKを出してしまったのかも・・・と思っている。





「あ、!」

「一馬・・・?まだ学校残ってたの?」



いつもは早く帰るはずの一馬が今日は珍しく学校に残っていた。

もう時間的に5時を過ぎていた。



「聞いたか、学級委員の話。」

「うん、聞いたよ。よろしくね、一馬。」

「あ、あぁ。」



たったこれだけの会話でも一馬にしてはよく話している方だと思う。

一馬はあまり喋らないんだと思う。

単なる照れ隠しかも、って心の中で思ってる。



「それじゃあ、遅れそうだから。じゃあな!」



それだけ言い残すと、一馬は急いだ様子で去っていった。

運命が、変わってなかったのかな?

宿命がこんな宿命だったのかな?

一馬と出会ったこと、いつまでも、いつまでも、ずっと、ずっと。忘れないでいよう。

そう心に決めて、今日の日を終えてみる。



まだまだ四月だ。

今もまだ桜が散っている。

これから3年間という長いようで短い中学校生活が始まっている。

そんな中学1年の四月。