あたしが今、一番欲しいものって、何だと思う?
旅のはじまり
いつものように、朝学校に行って、授業を受けて、いつもどおりに部活やって、家に帰る。
ただこれだけの毎日が少しずつ過ぎていく。
そんな毎日がつまらない。
もっともっとやりたいこととかいっぱいあるのに、時間が足りない。
いつもどおりの毎日じゃなくって、毎日違う自分に会える、そんな毎日でありたい、とあたしは思う。
だから、旅に出よう。
これから、旅の始まりだ。
「お母さんー?」
「はい、何?」
いつもどおりのお母さん。
いつもどおりの返事。
つまらない。
「ちょっと、旅に出て来るから。」
「・・・は?何言ってんの、アンタは。」
「別に、旅に出るって言っただけだし。それじゃあ、暫く帰って来る予定はないけど、それじゃあ、またね。」
「またねって。ちょ、待ちなさい!待ちなさい!」
そんなお母さんの声も聞かずにあたしは、荷物を持って靴を履いて家をでた。
あたしは、いつもどおりでつまらない毎日をこれほど変えたいと思ったことはなかった。
そして、これからどんな毎日があるのか、今は楽しみで仕方ない。
旅先でどんな人に逢うのか、どんな景色が見えるのか、どんな体験をするのか・・・。
色々なことがあたしの頭をよぎっていく。
そうだな、まずはどこに行こうか。とか、何がいいかなー?なんて。
その前に・・・しなくっちゃいけないことがあった。
携帯電話を取り出して、電話をかける。
「もしもーし?鈴木学園ですか?」
「はい、そうですが、どちら様でしょうか?」
「あ、その声は、鈴木校長先生ではないですか?」
「そうですが・・・」
「坂本学園、2年C組20番でーす。こんにちはー。」
「あぁ、さん。こんにちは。今、担任の先生に代わりますね。」
「はーい、お願いしまーす。」
そう、学校。つまらない、つまらない、変わらない学校。
「もしもし?さん?斉藤だけど・・・」
担任の斉藤先生。教科は社会の女の先生。
「です。お世話になってます。えっとですね、ちょっと今お時間大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫だけど。」
「暫く学校休むんで。それだけです。」
「暫く?どれくらい休むの?」
「わかりませんけど、暫く休みますって。そうですねぇ、1年以上休むかも・・・」
「ちょっと、待ちなさい!それって、1年以上って言ったら、あなた進級卒業できないわよ?」
「いいですよ、一個下とかと一緒に卒業しますからー。」
軽い口調で答えるあたしに、先生はどれくらい怒っているのだろうか?
少し、先生の顔を見て見たいと思った。
「それじゃあ、失礼しますね。皆さんに宜しくー。」
「ま、待ちなさ・・・・」
一方的に切ってやった。だって、これ以上長く電話してたら、電話代がもったいないし、時間の無駄。
携帯電話をポケットに閉まって、再び歩きだす。
まずは・・・京都くらいに行きたいなぁ、なんて思ってみたりもする。
遠いけど、でもあたしは行きたいから、行く。
財布の中身を確認して、どうやって行こうか考える。
・・・59843円・・・。6万円くらいしか、持ってない。
ここでバスとかなんか使ってたら、どれくらいかかるだろうか?
その行った場所なんかで、バイトとかしないと、一年以上はやっていけれないんだろうなぁ。
まぁ、いっか。なんて軽々しく考えた。
とりあえず、バス会社に電話して、京都までの時間と値段を聞いて見た。
大丈夫かなって思ったから、バスに乗って、京都まで行くことにした。
バスの中なんかじゃ暇だった。
その辺の立ってるおばちゃんとかにも声をかけてみる。
「おばちゃん、こんにちは。」
「えぇ、こんにちは。」
「立ってんの辛くない?大丈夫?」
「えぇ、大丈夫よ。」
「それでも、座っていいよ。あたしが立つし。」
「そんなんせんでもえぇのに。」
「ううん。遠慮しないで。あたしがしたいだけなんだから、座ってよ、おばちゃん。」
あたしが声をかけたおばちゃんは、ちょっと太ってて、愛想のよさそうなおばちゃんだった。
ちょっと訛った喋り方をするおばちゃんだった。
「そうやの?ありがとうな、お嬢はん。」
「やめてよ、おばちゃん、お譲さんなんて、あたしには合わないからさ。」
「じゃあ、お名前教えてくれはる?」
「だよ。」
「ちゃんね。おばちゃんはね、言うの。宜しゅうにね。」
「さんね。こちらこそ宜しく!」
いい仲間が出来たかなー?っておもう。
席がいっぱいになってて助かったかも。
「ねぇ、ちゃん。今日はどこに行きはるん?」
「んー、京都だけど。」
「京都かいな。せやったら、ウチに泊まりんはい。」
「え!?でも、さんとこ、迷惑じゃない?いいよ。」
「子供は遠慮せん方がえぇよ。泊まりんはい。」
「・・・じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとう、さん。」
「いいえ、えぇんよ。」
それからバスの中では、さんとずーっと話してた。
面白いおばちゃんだった。
ずっと話してて飽きない。楽しいなーって思った。
あたしはもしかしたら、こんな人たちに出会うのを待っていたのかな?
「ほら、あれやで。」
「うわっ、大きいね!」
「ウチは旅館しとるんよ。せやから、ちゃん泊めても大丈夫よ。」
「うん、ありがと!」
「お、のおばちゃんやん!帰って来たんやね。お帰り」
「あら、シゲちゃんやない。ただいま。帰ってきたんよ、丁度今ね。」
あたしの知らない・・・ってそれが普通なんだけど、男の子。
「おばちゃん、その子、どしたん?ってか、誰なん?」
「あぁ、バスの中で会った子でね、ちゃん言うん。おばちゃんに席譲ってくれたんよ。」
「へぇ、そうやったんや。ちゃん言うんかー。俺はな、成樹言うんよ。シゲ呼んでーな♪」
「は、はぁ・・・。」
成樹君・・・シゲ、ねぇ。
明るい奴なんだなぁ、シゲは。と思う。
あたしもそれなりに明るいとは言われる、言われるけれども、そこまで明るくはないと思う。
でも、ちょっと気が合いそうって思った。
「なぁ、おばちゃん、ちゃん、借りてもえぇ?」
「そりゃぁ、おばちゃんはえぇけど・・・」
「あたしはいいよ?」
「じゃあ、行くで。荷物は、おばちゃん任したさかいなー!」
「はいはい。」
そういってシゲはあたしの腕を引っ張って行った。
暫く走った。
走って、走って、走った。
誰も居ない森の中へと入っていったのだろうか?
京都にこんなところがあるなんてちょっと以外だった。
「ちゃん、足速いねんな。」
「いやいや、そんなことないよ。」
「いや、十分速いで。俺が言うんやさかい、間違いないんやって。」
シゲに言われても、何の保証もついてこない。
別に、自分で足が速いなんて思ってないし、思いもしない。
それに、意味がないとは思った。
まぁ、お母さんとかお父さんとか、先生とかから逃げるには便利かなぁ?っておもう。
〜〜〜〜♪♪♪
「あ、ごめんね。」
携帯電話が鳴ったのだ。どうやら電話らしい。
「もしもし?」
相手の名前も確認せずに電話に出る。
「もしもし!?!?お母さんだけど、今どこにい」
またプツッって切ってやった。
シゲがいるし、シゲが見てるし、折角の時間なんだし、もったいないんだから、電話なんかであたしの時間を奪わないでほしいの。
「誰からやったん?」
「お母さん。」
「何で切ってしもうたん?」
「いやだったから。」
「へ?」
「時間を、奪われたくなかった。」
「・・・・」
「あたし、今っていう時間が凄く大切に感じるんだ。だって、こうやってシゲと二人で話してる時間だって、もう来ないかもしれない。“今”って時は絶対にもう一度やってくることはない。だからね、一日を終わらす、一週間を終わらす、一ヶ月を終わらす、一年を終わらす・・・そうしていったら、“人生”っていつか終わっちゃうでしょ?まだまだあたしにはやりたいことだって色々あるのに、時間が足りない気がする・・・んだ。ごめんね、急にこんなこと。」
「気にせんでえぇよ。」
「・・・うん。」
たった二人、森の中で静かに話をしていた。
もったいないなんて今まで思っていた時間がどんどん過ぎて行って、でも楽しくていつまでもここにいたいと思った。
「なぁ、。」
「ん?」
「俺も、俺も旅に出たらあかん?」
「え!?何で?」
「の話聞いて、もっと“今”って時を大切にしたいなぁ、思うた。それでな、とずっと一緒に居たい思うたん。」
「で、でもあたしたち今日会ったばっかり・・・」
「そんなこと俺には関係あらへんの。一目惚れってことも、あったりするんやで?」
「・・・え。」
「俺は、今日すっごいん事知りたい思うた。そんで、今こうやって話してて、いろんなこと、のこと知って、もっとんこと好きになった。せやから、俺もと一緒に旅に出たい・・・。」
「・・・・・・っ!」
涙が出た。
あたしのあんな話を聞いて、自分もそう思ったって言ってくれて、凄い嬉しくって・・・
「あ、・・・がと。」
「なんやて?」
「ありがと、シゲ。」
「それは俺のセリフやって。普通は逆やろー。」
「それでも、それでもありがとう・・・っ。」
それから暫くあたしは泣き続けていた気がする。
「ほな、行こか。出発は夜やで。俺が迎えにいくさかい、待っとれよ。」
「う、うん。」
さんに、なんていおう?
どうしよう、行きたい。行きたいけど、さんにありがとうってもう一度言っておきたい。
「あ、ちゃんおかえりんさい。」
「・・・た、ただいま。」
「ほら、お夕食出来とるさかいに、食べんさい。」
「ありがとう、さん。」
「えぇんよ、ほら。暖かいうちに食べてしまい。」
「うん、ありがとう。」
ありがとう、ありがとう、ありがとう。
あたし、さんに出会えてよかった。
ありがとう、ありがとう、ありがとう。
ずっと言い続けても足りないくらいの、感謝。
ごめんね、さん、ありがとう。
そうしてあたしの一日は終わった。
「、。」
「ん・・・」
「ほら、行くで。」
「あ、シゲ。うん、行こう。」
迎えに来てくれたシゲと二人で並んで歩いて、後ろをちょっと振り返る。
涙が出そうになったけど、堪えて歩いた。
「えぇ人やろ?のおばちゃん。」
「うん。あたしもあんなお母さんがよかった・・・。」
「そんなこと言うたらあかんて!のおかんやって、ちゃんとのこと、好きやから、昨日やって電話してきたんやと思うで?」
「うん・・・そうだね。」
そうしてずっと歩いた。
あたしたちの旅はまだ、始まったばかり。