あたしはもう、忘れたんだ。
“プラス思考”なんて言葉は。
『やーい、チビ!!悔しかったら抜かしてみろー!』
自分より身長高い奴が羨ましくて…。
悔しかった。すごく、すごく。泣きたいくらい。でも…泣かなかった。
認めたくなかったから。
あたしは、追いつけない自分が嫌で、嫌で、嫌いだった。
でも、いつか追い越してやる…ってそう思っていたのに…。
なのに、なのに身長はあまり伸びなくて追いつけなかった。
もう、あたしはダメなんだって思った。
“プラス思考”に考える自分も、そう考えさせてくれる友達もいなかった。
なのに、そう考えさせてくれたのは、同じクラスの須釜寿樹だった。
スリープラス
「す、須釜!」
「はい?」
「今日からあたしと須釜で、週番…だから。よろしくね。」
「あ、はい、わかりました。こちらこそよろしく。」
そう。あたしは今日から週番なのだ。
このバカデカい須釜と。
「・・・ったく、先生ってば、濃く書きすぎだっての!もっと薄く書いて欲しいと思わない?それに、消すの大変だしさ。」
「そうですね。」
黒板消し片手に、話すあたしたちは身長差がありすぎてまるでお父さんと娘みたい。
そして、あたしたちは、少し目線を違えて話す。
一つ、あたしには問題が生じていた。
あたしに出来ないんだな、コレが。
まぁ、須釜に頼めばいいんだけど、頼みたくないんだよなー。
まぁでも、あたしには仕方ないから。
よし、
「ねぇ須釜。」
「何ですか?」
「上の方、やって?」
「わかりました。」
「ありがと。」
「どういたしまして」
そう、あたしは黒板の上のほうが届かない。
それは、身長が低い。
ただ、それだけの理由。
須釜と並ぶとあたしが須釜を見上げて、須釜があたしを見下ろす感じになる。
それほどの身長差がある。
「さんも大変ですね。」
「は?何が?」
「身長、低いほうでしょう?」
ひょろ〜んとした顔は、まるであたしのコトなんて考えていないかのよう。
簡単に人が傷つくコトが言える。
それが、須釜寿樹。
どうせ須釜から見れば低いよ〜っだ!
「うん、すーっごい大変だよ」
「ですよねー。でも、高い方がいいってことは、ありませんよ」
イヤミはまるで通じていない。
まだまだひょろ〜んとしてる。
「へ?何で?でもさ、低いのよりはいいっしょ?」
「でもですね、僕なんかしょっちゅうドアに頭ぶつけていますよ。」
「そりゃぁ、その身長だもんね。」
「あと、小さい方が可愛いじゃないですか。」
「それは、須釜から見たら。の話しだよ。」
「そうですかねー?」
「うん。それでもあたしは、高い方がいいと思うよ。」
いくらなんでも、あたしは小さすぎるんだよ。
何をするのにも標準に満たないこの身長は、不便で、どうしようもできない。
欲張りなコト言わない。
でも、それでも、もう少しでいいから、あたしを大きくしてほしい。
「でも、きっとさんなら伸びますよ、まだ」
「そんなこと…ある?」
「まだ中3ですよ?それに、高校で伸びるかもしれませんしね。人それぞれですから。それに、プラス思考で行きましょうよ。」
その須釜の言葉、信じてもいいのかな?
神様のお告げでもない。
何の確信もない。
それでも、なぜか救われたんだ。
あたしは、忘れていた。
プラス思考に考えるということを。
須釜のおかげで思い出したよ。
あたしはきっと、プラス思考で考えていける。
これからも、ずっと、ずっと…。