・・・大好き、っていえたらどれだけ幸せだろう。
素直になりたい。
そう思えたのは・・・
あなたがいたから。
素直になれたら・・・
「みっくん・・・?」
「あ、ちゃん。おはよ。どしたの?」
「あ・・・ううん、ごめん。何でもないんだ。」
彼の名前はみっくん・・・じゃなくて、日生光宏くん。
あたしのクラスメイトであり、あたしの好きな人・・・。
朝よく下駄箱で会えばさっきみたいな会話。
素直になりたいよ。
もっと、みっくんと一緒に話していたい。
もっと、もっと近づきたいんだ。
ねぇ、みっくん・・・どうしたらいい?
「完全に恋しちゃってんだねぇ、。」
「だ・・・だって・・・。しょうがないじゃん、ちゃん・・・。」
「ほら、ウジウジしないの!、しっかりしな!」
「で・・・でも・・・。」
彼女はあたしの唯一の友達、って言ってもいいくらい仲がいい子。
ちゃんは、小学校の時から同じで、ウジウジしてるあたしをいつも励ましてくれてる。
「元気だしな!、あたしも協力するからさ。」
「ほんとう?」
「ほんとだよ、ほら。まずは日生のところに行こう!」
ちゃんはいつも強気っていうか・・・かっこいいところがある。
ショートカットの髪がいつもサラサラしてて・・・カッコイイ彼氏サンがいて・・・。
ちゃんはあたしにとってうらやましい事だらけだよ。
ちゃんはバレー部で、ちゃんの彼氏サンは、サッカー部。
だから、彼氏サンはみっくんと仲がいいんだ。
きっと協力してくれる、って言ったのもだからだと思う。
初めてみっくんと会ったのは、1年生の3学期が始まったばかりの頃。
転校生としてウチの中学にやってきた。
そして、2年生になった時、同じクラスになれた。
それまではみんなに騒がれてる『みっくん』がどんな人、なんて知らなかった。
たまたま1学期始まってすぐの席替えで隣の席になってちょっとだけ話をした。
楽しかった、あの頃に戻りたい、なんてすぐに思ってしまう。
みっくんには彼女はいない、って聞いたけど、きっとそれは・・・
サッカーに集中したいから、とかっていう理由なの?
直接聞いた事はないけど、みっくんを狙ってる女の子たちが話しているのを聞いた。
正直、あたしは怖いよ。
みっくんを好きになった事をたまに後悔してしまいそうになる。
途中で我に返ってこれるけど、もし・・・
そんな事があったら・・・後悔してしまったら・・・
あたし、どうなるんだろう?
って、そんな事ばっかり考えてる。
「あ、ちゃん!」
「みっくん・・・どうしたの?」
みっくんから話しかけてくれるなんて、珍しいね。
そう言おうとしてやめた。
何だか、今までの過去に浸ってしまいそうだから。
「いや、別にその・・・なんでもないんだけど。優がさ・・・。」
「・・・?柴崎くん?」
柴崎優くんは、ちゃんの彼氏サンの事。
やっぱりちゃんは彼氏サンに何か頼んだんだ。
「いや、やっぱり何でもない!ごめんな、ちゃん。」
そういうとみっくんは後ろにふり返り走り去っていった。
足の速いみっくんを見ていられるのは少しの時間だけ。
寂しい思いだけがそこには残っている。
「えー、みっくん結局何も言わなかったの!?」
次の日の朝、ちゃんと会っていきなりどうだった?なんて聞かれた。
何の事かわからずにオドオドしていると、またちゃんに怒られた。
みっくんの事だと言われ、昨日あった事を言うと、ちゃんは叫んだ。
「うん。でも、何の用があったんだろう?」
「バカね、。もっと色んな考えを持ちなさいよ!」
「え・・・?ちゃん、どーゆうこと・・・?」
「ほら、いきな!」
背中を押されて前に倒れそうになる。
ゆっくりと顔を上げた先にはみっくんがいた。
「大丈夫?」
「あ・・・うん。」
「おい、もさ、強く押しすぎだろ。」
「そんな事ないって。じゃね、あたし先行くから!」
そのままちゃんは走っていってしまって、残されたのはあたしとみっくん。
周りに登校してきている人たちもあんまりいなくて、ただただ立ち尽くすだけ。
「あのさ・・・ちゃん・・・。」
「・・・な、何?」
「昨日の事、に聞かれただろ?」
「・・・あ、うん。」
「ごめんな。」
「え?」
何でみっくんが謝るの?
みっくん何も悪くなんかないよ。
そう言いたいのに言葉が出てこない。
「オレ、ずっと前から優に言われてたんだけどな・・・。」
「何を?」
「早く告白しろ、って。」
どういうこと?
あたしの頭が付いていかない。
思考回路が完全にショートする方向へと走り出した。
「オレ、ちゃんが好きなんだ。」
好き、なんて言葉に反応して一気に冷静になる。
周りにいた人たちもちらちらとこっちを見ながら気にしていないふりをして歩く。
あたしは何が何だかわからず、そのまま立ち尽くしていた。
「ちゃん・・・?」
「あ・・・え、えと・・・。」
「急にこんなこと言って、ごめんな。でもさ・・・知ってる?」
みっくんが穏やかな顔をしている。
・・・あたしの、一番落ち着く表情。
「ちゃん、男子から結構人気あるんだ。大人しくて可愛くてさ・・・なんていうの?守りたい、みたいな?」
「そ、そうなの?・・・で、でもあたしなんて・・・。」
「自分と他人じゃ見る目が違うの。でさ、優に『早くしないととられる』なんていわれちゃってさ・・・。オレ、焦っちゃって・・・。」
話が飲み込めないまま、みっくんはどんどん喋っていく。
「オレ・・・ホントにちゃんが好きなんだ。オレと付き合ってくれない・・・かな?」
「・・・え、えと・・・。」
生まれてこの方初めて告白されたもので・・・どうしていいかわかんない。
「な、何て返事すればいいのかな?」
「んー・・・」
そう聞くとみっくんはちょっと困った顔をして、両手の人差し指をたてて、前に差し出した。
「じゃあ、もしいいなら、右手。ダメなら左手を握ってくれない?」
「あ・・・うん。」
ゆっくりと手を前に出し始める。
みっくんは下を向いた。
手を・・・つかめた。
「え・・・」
「あ、ダメ・・・かな?」
「何で?・・・ダメなの?」
「え・・・?」
「だって・・・左手・・・じゃん。」
「あ!ご、ごめんね。みっくんの左手だよね、こっち。あたしから見て右手だったから・・・。」
「え、じゃ、じゃあ・・・。」
「よろしく・・・ね、でいいのかな?」
「おう!ありがと、ちゃん。」
みっくんはその後あたしを抱きしめてくれた。
道の真ん中で色んな人が見てた。
恥ずかしかったけど・・・嬉しかった。
それからは2人で手を繋いで学校へ行った。
教室へ行くとちゃんと柴崎くんが血相変えて飛び掛ってきた。
必死な顔してどう?どうだったの?なんて聞くからみっくんと2人で笑った。
「見てわかれよな、お前ら。」
みっくんが繋いだ手を少し上に持ち上げた。
それを見たちゃんは涙目になりながらあたしの頭を撫でながらよかったね、って言ってくれた。
ありがとう、ってその時言えなかった。
ちゃんにつられて泣きそうだったから。
ごめんね、ちゃん。
ちゃんのおかげであたしはみっくんと幸せだよ。
ありがとう、ちゃん、柴崎くん。
・・・ありがとう、みっくん。
あたし、これからもっと素直になれるようにがんばるね。
みんなにありがとう、って・・・大好き、って言えるように。