久しぶりの休日。
そこで見かけたのは、楽しそうに笑う彼の姿。
その時かな?
ふと、思ったんだ。
いいな、あの人、って。
卒業のころ
「はっ!?マジで!?うわっ、バカー!」
「うるせぇよ!もー、マジでビックリしたってんの!バカ!」
「ふーん。あたしには関係ないもんねぇ!」
何でこんな言い方しか出来ないんだろう…。
これでも、普段よりは落ち着いてる方。
「あー、ってさぁ…高校、M高受けんの?」
「うん。」
中学三年生のあたしたちには、受験がひかえている。
ついでに言うと、M高は県下1位を誇る進学校。
もちろん、私立じゃぁない。
「俺もさぁ、M高行こうと思って。どう思う?」
「本音…言っちゃってもいいですか?」
「…どうぞ。」
ぶっちゃけさぁ…
「無理でしょ?」
「あ、やっぱり?」
こいつの成績、ヤバイのよ、マジで。
まぁ、下から数えた方が早いのは確か。
あたしは毎回TOP3には入ってるけどね。
「でもさー、俺、気づいたんだよね。」
「うん。」
「俺にはサッカーがある。」
「あ、そだね。」
「M高、結構サッカー強いじゃん?」
「推薦、狙うの?」
「うん。」
確かに、サッカーの腕前が凄いのは知ってる。
選抜なんかにも選ばれちゃったりなんかして。
足も速い、テクニックだってある。
そして何より、こいつには…気持ちがある、ってのかな?
「とりあえず、頑張ってね。」
「おー!」
「あたし、日生と同じ高校行くの、楽しみにしとくから。」
「ん、わかった。」
これもちゃんとした本音なのよ。
日生のことは好きだよ?
でも、LOVEと違って、LIKEなの。
一緒にいて楽しいし、それなりにかっこいいし…。
でも、好きになれないんだよね、今以上に。
どうしたらいいか、なんてさっぱりわかんないし、思いを伝える気もない。
まぁ、それ以前にLIKEなわけだし。
「あ、そだ…。」
「何よ?」
「受験勉強教えてくれねぇ?」
「何でよ。」
「俺、バカだもん。」
聞いてたらなぜかわかんないけど、笑いがこみ上げてきた。
「いいよ。」
だから、一緒にいたら面白いの。
「やっぱ、バカ。」
「うっせ!」
今は、日生との勉強会の途中なんだけど、ホントバカ。
何にもわかってない。
基礎も応用も何もかも。
「アンタ、この学力でよくM高狙うなんて言えたわね。」
「まーな。」
「適度に頑張って。」
「はいよ。」
日生と一緒の高校に行きたいのは本当だけど。
でも、日生と一緒に高校に行ってのも不安がある。
ほら…やっぱさ、日生ってモテるじゃん?
って、何言ってんだか、あたしは。
日生がモテてんの見たら何だか、イライラしちゃうのよね。
これが、“好き”ってことなの?
ねぇ、日生…教えてよ。
「じゃ、頑張ってね。」
「おう!今までサンキューな。」
「いえいえ、どういたしまして。」
「じゃあ、終わったらまたここで。」
「うん。あとでね。」
「おう!」
推薦の受験日。
もちろん、あたしも推薦で受かりたいから、受けたけど…。
難しいよ、やっぱり。
試験問題はもちろんだけど、面接も凄かったわ。
「日生?」
「よ!」
「どうだった?」
「最悪…。」
「そう…。」
「は?」
「普通よ、普通。」
「そっかー。」
受験後の会話は弾まない。
いつも以上に盛り上がらない。
日生にはいつもの元気がない。
「日生…」
「いいやっ、俺…落ちたらさ、私立に行くわ。」
「え?」
「俺、私立、呼ばれてんだ。」
「そうなの?」
「私立には友達もいるしさぁ、もし今回ダメだったら向こう行くわ。」
「…そっか、寂しくなるね。」
「うん…。」
日生が落ちたら私立に行く宣言をしてから約一週間。
ついにこの日がやってきた。
『推薦合格発表日。』
信じられないくらいにドキドキしてるけど、大丈夫かな?
あたしのことは、別にいいの。
ただ、日生が…日生が心配なだけ。
「?」
「あ、日生。」
「いよいよだな。」
「うん。そうだね。」
「俺さ、受かったら真っ先にに知らせる。」
「え?」
「教室のドアの前に立ってて。俺、サインだすから。」
「う、うん。」
そう言って、日生は隣の教室へと行ったけれど、あたしは不安で仕方がなかった。
何か、日生からサインが見られるといいけど。
「さん、次。」
「あ、はい。」
日生と入れ違いのはずなのに、日生はまだ出てきていない。
「!」
「日生?」
「俺、受かってた。」
「…うそ。」
「嘘じゃねぇよ、ほら!」
「おめでとう、日生!頑張ったね!」
「次、お前の番。」
「うん。」
「下で待ってるから。」
「うん、行って来るね。」
日生が受かってたこと。
聞いてから凄く安心した。
あたしも…日生と同じ高校に行けるといいな。
「さん…。」
「はい…。」
「おめでとう。」
「あ、ありがとうございます!」
あたしもM高に受かることが出来たみたいだった。
嬉しかった。
日生と同じ学校に行けること。
「日生っ!」
「!どーだった?」
「受かってた。」
「おめでとっ!よかったなっ!」
「ありがと。」
「これで俺とは同じM高生、ってわけだ。」
「そだね。」
多分、いつまでも思うことが出来ると思うわ。
『日生と同じ学校でよかった』って。
「あ、そださー。」
「ん?」
「明日暇?」
「明日…暇、だけど?」
「合格祝いでさ、遊びに行かね?」
「いいけど。」
「わかった、明日さ、学校の前に10時集合な!」
「うん。」
「じゃ、俺練習行くから!」
「頑張ってね。」
「おう!」
明日・・・日生にあったらまず、何て言おう?
よかったね?
おめでとう?
それとも・・・
日生と一緒で嬉しいよ?
日生が・・・大好きだよ。
そう言ってみようか・・・。
日生は何て言うだろう。
考えただけであたしは、これからの未来を幸せに過ごしていける気がした。