その手が届くと思えた。
空に、天に・・・君に。
届くと思ったのに・・・届かなかった。
一緒に並んで歩ける日が・・・来たのに。
ソラ
「あ・・・おはよ、椎名くん・・・。」
「おはよ・・・。」
朝から緊張・・・って。
嫌な一日になりそ。
「あ、?」
「え?何?」
「オレとで今週週番だから、これ、お願いしてもいい?」
「・・・あ、うん。わかった。」
珍しい、椎名くんから離しかけてくれるなんて・・・。
彼、椎名翼くんはこの飛葉中のリーダー・・・もとい、アイドルである。
それは、クラスだけにとどまらず、学校全体で人気がある。
だって・・・あのルックスはやばいでしょう!?
まぁ、あたしもその他大勢の一人なわけなんだけど。
マンガやドラマみたいにアイドルと同じクラスの女の子の誰もが特別な存在になれるわけじゃないんだ。
なれちゃったら、みんなもうとっくのとうに彼女になってるって。
椎名くんには、彼女がいない。
今まで何度も椎名くんに告白した人の話なら聞いてきた。
でも、椎名くんの悪い噂・・・聞いたこと・・・あったっけ?
椎名くんは、いい人。
確かに言葉にキツイところはあるけど、それは愛情の裏返し的な、そんな風に思えたら、どんなにキツイ言葉でも受け止められる気がするんだよね。
本当は優しいんだ。
あたしは、それを知ってるから・・・。
だから、椎名くんを好きになったんだ。
「あ、。ごめん、今日ほとんど仕事やらしたね。」
「ううん、いいよ。こういう仕事って嫌いじゃないし。」
「さぁ、そんなんじゃこれからやっていけないよ?社会に出てみればこんな事を押し付けられてそれがはい、いじめでした。って気付いたときにはもう遅いんだから。わかってる?聞いてる?右耳から入って左耳へ抜けていったりしてないよね?僕の言葉くらいちゃんと聞いてよ。でさ・・・」
「し、椎名くん?」
椎名くんがこんな長く喋るなんて初めてみた。
当たり前だよね。
今までまともに喋ったことなんて数えるほどしかないんだから。
「あ、悪い。」
「ううん。」
「は、人がよすぎるんだよ。」
「そんな事ないよ。」
「ある。あ、あと日誌出して終わり?」
「みたいだね。」
そういって、教室を出て行く。
職員室にいる先生のところに歩いていく。
あたしのクラスは、学校で1番職員室から教室までが遠いクラスだと思う。
もう、万歳!
遠いってすばらしいね。
それだけ・・・椎名くんと並んで歩けるって事だもん。
やっと、並んで歩けた。
「ねぇ、椎名くんってさ・・・。」
「何?」
「あ、ごめん。やっぱりなんでもない。」
「そこまで言っておいてやっぱり言わないなんて、卑怯だよ。こっちは気になって仕方なくなるんだから。何回もしつこく聞かれないうちに早く言った方がいいと思うよ。僕は、しつこいからね?嫌、って言われても絶対聞き出すからね?わかった?」
「あ、うん。」
「なら、早く言ってよね。」
「・・・彼女とか、好きな人とかいないの?」
「いないよ。」
椎名くんの話は長いけど、利にかなっていて、説得力がある。
聞くのは大変・・・。
だって、長い文章を早口で喋っちゃうんだもん。
「なんではそんな事聞くの?」
「・・・それは・・・椎名くんが・・・・・・好き、だからデス。」
「・・・ふーん。そっか。」
「・・・え?」
こんな返事が返ってくるとは思ってなかったよ?
選択肢としては、『ごめんね。』か、あんまり有力じゃないけど、『僕も』みたいな感じで返事してくれるのかと思ってたから・・・。
甘かったのかな?やっぱり。
「あ、ちゃんとした返事してほしかった?」
「そりゃぁ・・・。」
「ごめん、ホントは好きな人がいる。むこうは僕の事ガキだとしか思ってないけどね。」
「・・・そっか。」
きっと椎名くんと初めて歩いたこの道は、絶望への道だったのかもしれない。
あたしはそれから『そっか』しかいえなくなって、涙が溢れて・・・。
どうしようもなくなって、椎名くんが何回も謝るから、余計に悲しくて・・・。
・・・これはきっと決まっていたことなんだ。
大丈夫だよ、すぐに・・・なきやむから。
ごめんね。
「じゃ、また明日ね。」
「うん・・・。」
「今日の事、椎名くんはあんまり気にしないでね?」
「・・・。」
「じゃあね。」
ソラに向かって・・・、手を振った。
あなたがいる方向のソラにむかって。
あなたとの・・・さよなら、だと思うから。
力強く精一杯手を振った。
バイバイ、ソラ。