好きなものは好きなんだから。

その気持ちはもう、どうにも変えられない。




リターンマッチ




『好きです…付き合って、ください。』

告白したのは3週間前。

その時は…断られた。

だけど、そんなことで傷ついてはいられない。

おとすしかないでしょう!

あの、黒川柾輝を。


「くーろかっわ!」

「…またお前かよ。」

「悪い?」

「悪い。」

「まぁまぁ。そんなに怒んないでよね。」

「…で、何の用だよ。」

「一緒に帰ろーと思って。」

「却下。」

「何でよ!」

「別になんでもいいだろ。ったく。」

「勝手について帰るよ?」

「お前はストーカーか?」

「…そうかもね。」

「何、気持ち悪いこと言ってんだよ。」

「い、いいじゃない、別に。」

「変なヤツ。」

「…と、とにかく帰ろ?ね?」

黒川柾輝…うちの学校の隣のクラスのヤツなんだけど、コイツがまた、変なヤツなのよ。

…って、あたしも相当変なヤツらしいけどね。

黒川には3週間前に告白して、んで、振られて…今は追っかけ中?

じゃなくて、リターンマッチしてんの。

毎日、ね。

…毎日負けてるけど。

「俺今日寄るとこあるから。じゃな。」

校門を出た途端に家とは逆方向に行こうとする黒川。

そんなのはいそうですか、って見逃すわけないでしょう。

「どこ行くの?」

「…本屋。」

「マジで!?ちょうどあたしも行きたいと思ってたんだよね。ね、一緒に行こう?」

「ダメ。」

「何で!?」

「そのあと翼の家行くから。」

「翼…さんの家ね。あたしも行くわ。」

「…何でだよ。」

「いやー、翼さんって椎名さんのことでしょ?友達が椎名さんのこと、好きでさぁ。調査頼まれてるんだよね。」

「…あっそ。じゃな。」

「ちょ、ちょっと黒川!おいていかないでよ。」

いつもいつもこんな感じ。

だけど、毎日の試合には負けてるけど、勝負には負けてないからね。

まだまだこれから!




「……あれ?柾輝…。」

「よう。」

「と、誰?」

「ストーカー。」

「違うし!」

「何?柾輝って彼女いたの?」

「違う…。」

「まぁ、いっか。どーぞ。」

椎名さんの家はデカイ。

びっくりするぐらいでかい。

黒川の家もかなりでかかったけど、椎名さんちは…もっと。

…あ、黒川の家は告白する前に完全にストーカー状態で後をつけて帰った時に見たんだよね。

「おじゃましまーす。」

「お前は帰れよ。」

「いいじゃない、椎名さんがいいって言ったんだから。」

「…勝手にしろ。」

あれれ?

黒川、本気で怒ったかな?




「んで?…告白してからずっと柾輝のこと、追っかけてるわけ?」

「はい、そうなんです。」

「ふーん。」

椎名さんの部屋に入れてもらって、椎名さんと黒川、そしてあたしで喋ってる。

「まぁ何でもいいけどさ。」

「翼ー!」

「あ、悪い。ちょっと行ってくるから。」

「はーい。」

「お前さ…そろそろ帰れば?」

「何で?」

「時間が時間だし、そろそろ帰れよ。」

「大丈夫だって、まだ明るいんだし。」

「…正直言って迷惑なんだよ。」

「…え?何て?」

「迷惑なんだ。サッカーにしても、勉強にしても、何をしてても集中できなくて、迷惑なんだよ。」

「…ねぇ、黒川?」

「何だよ?」

「それって…黒川、あたしのこと、好きなんじゃないの?」

「…は?」

自分で言うのもなんだけど、かなりの自意識過剰発言。

でも、そういうもんだよね?

「だって、集中できない、ってのは他のことに気がいってるからでしょ?その相手があたしなら…そうなんじゃないの?」

「…そう、かもな。」

「そうでしょ。」

「そうだな。」

「認めた!?」

「…ちょっとはな。」

黒川はおちた…はず。

「ねえ、黒川それってさ…。」

「ん?」

「あたしを彼女にしてくれる、ってこと?」

「………。」

「何で黙ってんの?」

「…だってお前が俺の彼女なんかになったら…俺は毎日こんなストーカーみたいなヤツに付きまとわれて…」

「それ、今までも一緒じゃん。」

「それに第一、こんなうるさいヤツの隣なんて…。」

「それも今までと一緒。」

「…はぁ。」

「何でため息つく必要があるのよ!?」

「別になんでもいいだろ。」

「じゃあ、付き合ってよ。」

「は?何でその話になるんだよ。」

「何でもいいじゃない。」

「…わかった。」

「……へ?」

「わかった、って言ったんだよ。」

「本当?」

「ああ。」

「…ったく、世話がかかるんだから。」

「椎名さん…。」

「よかったね。」

「あ、ありがとーございます。」

「じゃ、さっさと帰ってよ、二人とも。」

「…え?」

「だいたいさぁ、何?柾輝が好きだからって何で俺の家にまで来るわけ?柾輝も柾輝だよ。
ちゃんと行き先くらい他に考えれなかったのか、っての。まったく、なんでわざわざ俺が
気を使って二人をくっつけてやらなきゃならなかったわけ?あーあ、せっかく今日はやる
こといっぱいあったんだけどな。あんたら二人のせいで台無しだよ。ってわけで、さっさ
と帰れ。」

「…は、はい。」

それから逃げるようにしてあたしは椎名さんの家を出たけど、黒川はなかなか出てこない。

まぁ、いっか。

いつも誰かを待つのは慣れてるから。

会えたときの楽しみが増える、待ち時間に黒川を想える幸せ。

ってか、これからはあたし…黒川の彼女なんだよね!?

…何しよっかなー。

ふふふ。

とりあえず、黒川が出て来たら、リターンマッチはあたしの勝ちだって、言ってやろうかな。