大空に向かって 2
「アンタ、何やってんの?」
「何、って寝てる?」
「何で疑問系なわけ?」
「さぁ?」
教室のざわつきはいつもと変わらないけど、一つ気になることがある。
それは、最近の横山の態度。
『せんせーい。』
『何?』
『横山のイビキがうるさいでーす。』
誰が言ったか何て覚えてなかったけど、授業中はいつも、寝てる。
あの告白から一週間。
あたしたちには何の変化も見られない。
「何で最近寝てばっかなわけ?」
「あー、眠たいから?」
「…バカ。」
「いいよ、バカで。」
こういう横山が嫌い、なわけじゃぁない。
でも…よく考えたら好きなのかどうかもわからなくなってきた。
と、いうのも、あたしが横山に惚れた理由は、サッカーしてる姿がかっこよかったから。
じゃあ、普段の横山は?
「何で…眠いの?」
「サッカー。」
「サッカー?」
「最近遅いんだよ、帰るの。」
「そうなの?何で?」
「何で…ってもバカ?」
「バカっ!?失礼ねっ。横山よりはバカじゃないと思うけど?」
「まぁ、お互いバカでいいじゃん。」
ホンット、マイペースなやつ。
あたしもそれなりにマイペースだと自分でも思うけど、横山には負ける。
ってか、勝てる自信なんて、0だし。
「あー、そだ。今度さ、試合あるんだけど、来ない?」
「試合?サッカーの?」
「うん。」
「どこで?」
「どこだと思う?」
「どこでもいいよ。」
「あ、いいんだ?福島なのに。」
「は!?」
福島…なんて、遠いよ?
行けるわけ…ないじゃん。
「だーかーらー、福島なんだって。」
「遠いよ。」
「いいじゃん。」
「よくないの!」
「別に気にすんなって!」
「気にするわ!」
福島なんて、遠いわよ。
あたしは一人じゃいけれない。
「アンタはどうやって行くのよ?」
「俺?もちろん、チームから…」
「そんなんであたし、行けるわけないじゃないのよっ!」
横山とはこうして言い合うこともしょっちゅう。
両思いになれたら、こんなこともなくなるのかな?なんて…
自惚れてた。
「いいよ、もう…行けないから。ごめんねっ。」
「おい、ー?待てよ」
もう、いいよ。
自惚れてた自分が本当にバカに感じて仕方ないから、もう、やめよ?
横山のことは大好きだよ。
でも…何か違う。
家に帰っても特別、何かすることがあるわけではなく、布団にもぐり込んでは、寝息を立てた。
何時間かごとに起きては暇で横山のことしか頭を埋め尽くすことはできなかった。
そんな夜も更けて、午前12時26分。
携帯電話のバイブが激しく手を揺さぶった。
「何よ、時間考えなよ、横山。」
『仕方ねぇじゃん。やっと、練習終わって家帰ったんだからさー…』
「は!?アンタ、こんな時間までやってたわけ?」
『うん。』
「やっぱ、バカ…。」
『だってさ、一週間前、言ったじゃん?』
「何をよ?」
『お前にもっとかっこいいとこ見せるって。』
「うん。」
今でもはっきり覚えてる。
あの言葉だけは多分、一生忘れられない気がする。
あの言葉だけは…
『俺さ、やっぱ言ったからにはにかっこいいとこ、見せたいわけ。』
「うん。」
『だからさ、そのためにはやっぱ、練習しかないだろ。』
「うん。」
『福島、来いよ。』
「うん。」
『俺がもっと、かっこいいとこ、見せてやるから。』
「…うん。行く。」
『お前、もしかして、泣いてる?』
「泣いてなんかないよっ!」
『あ、やっぱ泣いてるだろっ?』
何で…なんで横山にはバレちゃうのかな?
一番バレて欲しくないヤツにバレちゃうなんて…。
「何で…?」
『好きなヤツのことだったら、それぐらいわかるの。』
「…そっか。」
『明日さ、土曜、暇?』
「暇、だけど?」
『遊びに行こ?』
「どこに?」
『サッカー場。』
「福島?」
『いや…ただの選抜練習。見に来いよ?』
「うん。迎えに来てね。」
『うん。』
「また、明日ね。」
『うん。』
電話は切れたけど、寂しくなんかないように感じられた。
また、明日も横山に会える。
そう、思うと嬉しくなれた。
土曜日、普通は学校ないのに、学校以外で会えるんだよ?
嬉しいに決まってる。
早く朝になりますように。
そう、願ってまた眠りについた。