川原に寝っ転がって、大空を見上げる。
手を差し出せば吸い込まれていくように。
あなたの顔がふと、浮かんだ。
大空に向かって 1
「?」
「あ、横山…」
「何してんだ、お前?」
横山の顔を思い浮かべてた、なんて言えない。
本当に本人が現れるなんて思いもしなかったわ。
「べ、別に。」
「ふーん。」
「本当は空をね…見に来てた。」
「そっか。」
「うん。」
辺りの静寂。
横山は自転車を道の端に止め、あたしの横に寝転ぶ。
「なんで横山はあたしの横に来るの?」
「あー…なんでだろ。ダメ?」
「別に…ダメじゃないけど。」
「そ。じゃあいいじゃん。」
横山はマイペース人間。…の割りにサッカーは天才的。
ちょっとサッカーしてる時を見かけたのね。そしたら…あたしが惚れちゃったってわけ。
クラスにいる姿じゃ想像出来ないくらいかっこよかったんだもん。
「ね、ねぇ横山?」
「………」
「横山?」
顔を覗き込む。
「横山…?」
寝てるの?
静かに寝息をたてていた横山。
「………横山?ねぇ…あたしの話、聞いてくれる?」
「うん。いいよ。」
「は!?」
「話聞くんでしょ?いいよ。別に。暇だから。」
「…起きてたの?」
「当たり前。そんな早く寝れないって。さすがの俺でも。」
「そうね。」
で?と、横山は聞く。
何を?そう答えれば、話。って返ってきた。
「話…ねぇ。」
「あ、もしかして告白?」
「バカっ!そんなんじゃないわよ。」
本当はそうだったんだけど。本人が起きてるんなら言えるわけないじゃん。
振られるのは嫌。寂しい想いをするのも嫌。横山と気まずくなってこうやって一緒に寝転んだり、話が出来なくなるのも嫌。
横山が好きだよ…。
本当は伝えたいよ。好きだって、でも勇気が足りないの。
しばらくこうしていた。気持ちよくて、話なんか忘れちゃいそうで。
でも、緊張してて…。
「話ってなんだよー?」
「いいでしょ、何でも。」
「よくねぇよ。せっかく聞いて?って頼んできたんだから、聞いてやらねぇと。」
「聞いて、って頼んだ本人がいいよ、って言ってるんだから、いいの!」
「じゃあ、代わりに俺の話聞いてよ。」
「へ?横山の?」
真剣な顔つきで見つめる。
ドキ、っとする心の中はまだ横山に知られたくない。
「ダメ?」
「いや、ダメじゃないよ!いいよ。」
「サンキュ。俺さー…の事好きなんだよね。」
「…は?」
思わず口に出る。あたしが伝えようとしていた事と同じじゃないかっ!
信じられない。は?なんて女の子らしくない言葉を出したことよりも、何よりも、横山の気持ちが信じられない。
「お前さー、俺が学校でサッカーしてたの見てたろ?」
「え!?何で知って…」
「俺もお前が見てるから頑張ったの。ちょっといいとこ見せてやろう、みたいな感じ。」
横山は続ける。
視線はあたしに向かずに空へ。
「もー、俺思ったね!あん時、最高の出来!」
「何がよ?」
「プレーが。」
「あ、そう。」
「お前のおかげ。」
「よかったわね。」
「うん。」
淡々と話続けた横山は手を空にかざす。
「大空に向かって走り出した、って感じ。俺…やっぱ思ったよ、あん時。」
「何をよ?」
「がやっぱ好きなんだ、って。」
恥ずかしいじゃないの。
幸いにも川原は人通りも少なくて、誰もいなかったけれど。
「あたしもさー、あの時思った。あ、かっこいいな。って。」
「…マジ!?」
「マジ。」
「俺ら両思い?」
「なんじゃない?」
「よっしゃ、俺行ってくる!」
「ちょっと、どこ行くの!?」
横山はいきなり自転車に飛び乗って言った。
「サッカーしに!お前にもっとかっこいいとこ見せたいじゃん。」
「…バカ。」
横山はもう一度大空に向かって走り出した。