僕の転校が決まった。
せやけどな。
転校はまだよかったねん…
なんやねん、この学校はぁっっ!!
猫の手
僕が思うに、この学校は普通じゃない、と思う。
校舎の形からしてあかんねん、ここ。
ハート型やって!?ありえへんわ、こんなん。
僕こんなことでやっていけるんか、わからへんし。
僕が転校してきたんは、県立の葉跡中学校。
まあ、中学の名前…初め聞いたら、ふぅん、やったんやけど、
よぉ読んでみたら、やで?
「葉跡」=「はあと」=「はーと」=「ハート」やん?
もう、ビックリすることが多そうやわ、ここ。
先が思いやられる、ってそんな感じや。
こんな会話まで僕は耳にしてしまった。
僕が廊下歩いとったん。
したらな、カップルらしい人らが話しかけてきてん
「あれ?アンタだろ?転校生。」
「いやーん、かっこいいんじゃない?」
「お前、俺とアイツどっちがいいんだよ?」
「何、そんなこと気にしてるの?アナタに決まってるでしょー?」
バカップルやろ、こいつら。
寒気がするわ、こんなん…。
僕、もうやって行けへんかもしれん。
「おい、転校生。」
「な、何や?」
「俺、柴崎優てんの。よろしく。」
「よろしく。僕、吉田光徳言うねん。」
「吉田な。ビックリしたろ?」
「何がや?」
「この学校。」
その後、僕は柴崎クンにこの学校についてのことを沢山聞いた。
僕もよぉわからんかったさかい、整理しようと思う。
この学校には変な言い伝えがあるらしくって、
『裏庭にある大きな桜の花びらを相手と自分の二人で持っていると永遠に二人は続く』
とか、
『体育館倉庫のある跳び箱が光る時がある。それを見た人は最高の恋愛が出来る』
とかな。
面白いなー、なんて思ってたんやけど、今は馬鹿馬鹿しいわ。
何が桜やねん、何で跳び箱が光るねん。
変な話やねんな。
でもま、ちょっとでも興味のわいた僕もどうやったんやろ…。
ついでに、この学校では、凄いらしいで。
カップルの数。
無茶なくらいおるらしいわ。
まぁ、柴崎くんも彼女はおるらしいねんけど。
おらん人の方が少ないらしいねん。
変わった学校や、と僕は改めて思った。
「吉田…光徳、ってアンタ?」
廊下の真ん中、階段の前。
後ろには見たこともない女の子。
「そう、やけど?」
「あははっ、やっぱー?」
急に上がる声の音量とテンション。
僕までつられて上がりそうやし。
「あたしは、ってんの。よろしくねー。」
「あ、僕は吉田光徳。こちらこそよろしゅう…」
「あたしもねー、転校してきたんだー。」
「へ?そうやったん?」
「うん。昨日ね。」
昨日なんて、そんな変わらへんやん。
でも、ちょっとだけ負けた気分になる。
「ねぇ、裏庭行こう?」
「へ、何でや?」
「もっと話したい。」
笑った顔、かわいいねんな。
ちょっとドキっとしたで、僕…。
って、何ドキッとしとんやろ、僕。
可笑しいんちゃうかな。
「ど、どしたん!?これ。」
「これとは失礼な!立派な猫じゃん?」
「いや、そうやけど。」
「猫。可愛いっしょ?名前つけようと思ってたんだけど。」
「それよりも何でここに猫がおんねん?」
「昨日、捨てられてたの。でも、ウチじゃ飼えないから、もってきちゃった!」
「そうやったんか…可哀想なんやな、この子猫も。」
「う、うん。そうだね…」
それから僕らは授業もサボった。
転校初日やのに、僕は「問題児」のレッテルを貼られてしもうた。
でも僕はよかったねん。
こんな変な学校やと思ってたんやけど、楽しいさかい。
それでえぇねん。
僕はと一緒に居られればそれでえぇ。
そう思えた。
「ん…してくれないのかなー?」
ある日、僕はまた裏庭でと猫の二人と一匹で遊んでいた。
「何をやねん?」
「お手。」
「犬やないやろ!してくれへんのんちゃうん?」
「さっきしてくれたのに!」
「嘘!?ほんまに!?」
「嘘。してない。」
は遊び心たっぷりで、おもろい。
見てて、な。
一緒に居ても面白いねんけど。
「あ…」
「何や?」
「言おうと思ってたんだけどねー…」
「何やって?」
「あたし、光徳が好きだわー。」
「な、何やいきなり!?」
「付き合って欲しいんだけど…」
淡々と言うが前に居るから余計に僕は焦って戸惑う。
どう返事したらえぇかもわからんし…。
「わかった、ねぇ、この猫がお手したら付き合ってよ?」
「え、えぇよ?」
いや、別にえぇよとか何で出たんかは知らんけど。
「あ…!!」
「あ…!!」
僕らは同時に声を上げた。
差し出した手の上に猫の手が乗ったのだ。
「やった!ねぇ、光徳!見た?」
僕はの言葉に返答もせず、ただ一点をみつめていた。
―――――――猫の手
それから僕らは付き合いだした。
ちゃんと約束したさかいな。
でも、今ではかなりの事好きやねん。
せやからこうして付き合ってることは嬉しい。
猫はというと、今も元気でやっとる。
けど、実はあれホンマはんちの猫やったんやて。
何か、が言うには…
「光徳と二人きりになる口実!」
らしいねんけど。
こうした僕のちょっとした猫の手騒動は終った――――――
と思ったら、大間違いだった。
誰かが新たな言い伝えを作ってしまったのだ。
『一目ぼれした人と二人で猫にお手をさせると告白が上手くいく』
なんてな。
ちょっと、信じて見る気、おきるわ、僕。
だって僕らが教えてやったんやからな。
「猫の手の言い伝えは、ちゃんと聞くんやで。」
こうして、僕らが伝える言い伝えやから。