友達だったらさ、名前とか、あだ名とかで呼ばないといけないわけ?

何?苗字で呼んだらいけないわけ?

アンタがあたしのこと名前で呼んでても、それはアンタの勝手。

だからあたしも勝手にアンタのこと苗字で呼んでるのよ。





苗字





「あ、!おはよー!!」

「おはよ、山口。」

「何だー?元気ねェなぁ・・・。」

「別に。」

あたしは、ただ、不機嫌そうに、歩いていく。

そう、毎日が、この繰り返し・・・。

「なぁ、!」

「何よ。」

「何でもねェよっ!」

ニィって笑う山口は、少しだけ・・・ほんの少しだけ、太陽とか・・・向日葵とか・・・そんなふうに見えたんだ・・・。

だから、ちょっとだけ、ドキッとした・・・。

っ!!」

「何よ、さっきから・・・。」

さっきから、ずっと名前を呼んでくる山口に、ちょっとだけ、ムカッとする。

本当は、自分の名前が、嫌いだから、呼んで欲しくはない・・・

けど、山口なら・・・山口なら・・・って、山口だから、許してしまうんだ・・・。

「なぁ、ってさぁ、そろそろ俺のこと、名前とかで呼びたいとかって思ってる?」

「はぁ?」

いきなりされる質問に対して、どう答えていいのかわからない。

「だから、は、俺のこと名前で呼びたい?」

「なんでいきなりそんな質問するのよ。」

「ん?最近、ずっと苗字だなぁって、思ったから。」

「は?それは、アンタが・・・」

途中まで言い、止める。

何を言おうとしたのか、はっきり言って、自分でもあまりわからなかった。

「何だよ、ソレ・・・。」

「山口の方こそ、なんなのよ・・・。」

「もう、わかんねぇなぁ!!!!」

いきなり山口が叫ぶ。

わかんねぇって言われたって、あたしの方も、それは同じなのに・・・。

「ったー!!」

また叫ぶ。

もう、何を叫んでいるのか、わからなくなってきてる。

「好きなんだよ・・・」

「はぁ?」

「好きなんだよ、が・・・。だから、だから、には、俺のこと、“圭介”って呼んで・・・欲しいんだよ・・・。」

少し赤くなって、弱気になった山口は、いつもとは違う、太陽とか向日葵みたいじゃなくて、どこか、可愛い・・・男の子に見えた。

ずっと遠い存在に感じていた、太陽。

そして、この“圭介”という名前。

「ったく・・・」

本当は、多分こんなことを思っているくらいなんだから、あたしも山口のこと・・・好きなんだと思う。

自分の気持ちに気づけないまま、あたしは、突っ走ていたんだね・・・。

「あたしも・・・好きだよ、圭介。」

・・・」

「だって・・・呼んでいいんでしょ?」

そう言ったあたしは、精一杯笑っているつもりだった。

ちゃんと笑えていたかどうかは、わからないけど・・・。

「圭介っ!!大好きだから。」

コレは、あたしの本音。

そして、苗字から、名前へと変わったときのためにとっておいた・・・台詞かな?

もう、これから先は・・・苗字で呼ぶこともなくなるかな?

・・・だって、名前で呼んでもいいっていう、圭介の許し・・・

そして、ただの友達から、恋人へと進展した、記念・・・かなぁ?

「圭介!圭介!」

「何だよ、さっきから・・・」

「何って・・・圭介と同じ気持ちだよ!」

そう、きっと同じ気持ちなんだ・・・

だって、今は君の事を苗字じゃなくて、名前で呼びたくてたまらなくなっている・・・そんな気持ちだから。