恋を知った。

同時に失恋も知った。

それでも、あたしは、大丈夫。

そうでしょ?

傍にいてくれるんだよね?

あなたが・・・ずっと、傍にいてくれる。

そう言ってくれたら、あたし大丈夫な気がするんだ。



L I V E - ライブ -



先輩がいる。

・・・楽しそう。

授業中に校庭を眺めては微笑む。

「・・・何見てんの?」

「英士・・・。別にいいじゃん。」

「あ、そう。でも授業聞いてないと今回ヤバイんじゃない?」

「う・・・。でも、いいの。もうすぐ・・・卒業しちゃうんだから・・・。」

そう、先輩はもうすぐ卒業しちゃう・・・。

季節は冬。

あたしたちの学校は中2で修学旅行に行く。

理由はもちろん、来年の受験に備えて。

あたしたちが修学旅行から帰ってくると、もう3年生は・・・学校にこなくなる。

休みが増える。

会えなくなる。

「どうでもいいけどさ、先生こっち睨んでるから、やめてよね。」

「あ、ごめん。」

先輩に会えなくなるのは、辛いんだ。

でも、あたしは知ってる・・・。

先輩には、大好きな彼女がいるんだよね?

この前、友達から聞いたから・・・。





「ったく、は危ないんだって。」

「だーかーらー、ゴメンって言ってるじゃん。」

コイツ、郭英士とは、幼なじみみたいなモン。

だからといって赤ちゃんの頃から一緒にいるわけじゃない。

幼なじみなのか、そうじゃないのかわかんない、っていうところもある。

英士とは小5から同じクラス。

もう同じクラスになって4年目になる。

自然と仲良くなってもおかしくない。

今では、『英士』と『』って呼ぶし、家に行ったりもした。

英士はサッカーやってるから、そのサッカー友達も紹介してもらった。

「英士はさー、好きな子とかいないの?いたらあたしの気持ちもわからないでもないかもしれないのに。」

「いるよ。」

「・・・え?」

「だからいるって。何回も言わせないでよね。」

「ホントに!?初めて知った・・・。」

「意外?」

「うん。」

英士に好きな人がいるとか、考えてもみなかった。

・・・あたしは、いつも英士の横にいられると思ってた。

例え、あたしが先輩を好きだとしても、英士の横はあたしの特等席だと思ってた。

考えが・・・甘かった―――――。





「あ・・・ちゃん?」

「先輩!?」

「久しぶりだね、ちゃん。」

「お久しぶりです。先輩、バイトしてたんですか?」

「あ、うん。でも一応親戚の家だから。」

「そうなんですか。」

先輩がバイトをしてたのは、コンビニ。

たぶん、親戚の人はここの経営者なんだろうなぁ。

「あれ・・・結人くん?」

ちゃん!?」

「結人くんどーしたの?今日は練習の帰り?」

「そーそー。あ、でも今日は英士は一緒じゃねぇぜ。」

「そーなんだ。」

レジの前で先輩をほったらかして、結人くんと話してしまった。

「あ、先輩こちら、クラスメイトの友達の結人くん。」

「どうも。」

「俺そろそろ行くわ。今日見たいテレビあるしな。じゃーな、ちゃん。」

「うん、バイバイ。」

結人くんは結局何も買わずに出て行った。

また先輩と2人になって、意識する。

「クラスメイトって、あの郭英士ってヤツ?」

「・・・そうですけど。」

「オレ、アイツ嫌いなんだよね。」

「え・・・」

先輩ってこんなに言う人だったっけ?

ううん、知らない。

あたしはちょっとしか話した事ないもん。

あたしが先輩を好きになったのは、10ヶ月前。

新入生オリエンテーション運営委員会の役員になったあたしと、委員長の先輩がいた。

そこで先輩とちょっとだけ喋って、名前覚えてもらって・・・

気付いたら好きだった。

先輩はかっこいい。

気さくだし、明るい。

リーダーシップもある。

きっとそんなところに惹かれたんだと思った。

「だって、アイツってすっげー生意気なんだろ?悪口ばっか陰で言ってさ、人を見下した話し方するって聞いた。ちゃん、そんなヤツと仲いいの?」

なんか、プチッって来た。

あたしの中で何かがキレタ。

「先輩に言われるほどのモンじゃないですよ。英士は・・・先輩と違って誰かに聞いただけで人を判断する人じゃないんです。何であたし・・・先輩が好きだったんだろ。・・・失礼します。」

店を飛び出した・・・。

先輩の前から、去った。

ちょっと前までずっとこのままでいたい、とか思ってたのに。

先輩に彼女がいる事も知ってたのに、何でだろう?

失恋したとわかったのに諦めきれなかった、初恋。

散っていく、想い。

英士にあいたい。





『もしもし?』

「英士・・・?」

『結人と会ったの?』

「・・・うん。」

『そ。どこで?』

「・・・コンビニ。」

『先輩がバイトしてる?』

「・・・何で知って・・・。」

結人くんに聞いたのか・・・。

言っちゃったんだね、結人くん。

『今家にみんないるから来れば?』

「みんな、って結人くんと一馬くん?」

『そ。』

「あたしが・・・行ってもいいの?」

『いいに決まってるでしょ。』

『あ、ちゃーん!さっきは大丈夫だった?ごめんな、先帰っちゃって。』

「結人くん、見たいテレビがあるんじゃなかったの?」

『だいじょーぶ!英士ん家でちゃんと見てるから。』

「・・・そっか。」

あたしは、一歩ずつ歩き出した。

?今、どこにいるの?』

「どこ・・・って、道。」

『それくらいわかるって。』

英士と話しながらもゆっくりと、でも確実に歩みを進めた。

『具体的に場所言って。』

「・・・コンビニからちょっと入った道。あの、角に自転車屋があるとこらへん。」

『今行くから。動かないでよ。』

「え、ちょっと?英士?」

英士の名前を呼んだって、返事が返ってくるわけでもなかった。

もう電話は切れていた。

自転車屋のシャッターが下りた前に立つ。

・・・先輩の事を考える。

何で、あんな事言っちゃったんだろ。

英士は・・・何て言うかな?

英士には好きな人がいるのに、あたしが英士の事かばって・・・何の得があったんだろう?

わかんないや。




!」

5分くらいで英士は来た。

自転車にまたがって。

「急いで・・・来てくれたんだね。」

「そりゃ、女の子長く待たせるわけには行かないでしょ。」

「・・・ありがと、英士。」

「・・・何かあったの?」

「何で、そう思うの・・・?」

が電話してくる時ってたいてい、そうだから。」

「・・・そうかな?」

「そうでしょ。」

「あたし、たぶん先輩の事、“好き”っていうのは、違ったんだろーな、って思った。」

「コンビニで?」

「うん。」

自転車に二人乗りして、英士につかまって、薄暗い・・・夜道。

今までにもこういう事はよくあった。

しょっちゅう英士の家には行っては、結人くんや一馬くんと一緒にぺちゃくちゃ喋って、遅くまで・・・ずっと。

暗くなると必ず英士は家まで送ってくれる。

結人くんたちの家よりあたしの家の方が近いのに、英士は必ず結人くんたちの家には走って行くんだって。

これは前に、一馬くんから聞いた話。

ちらっとしか話してくれなかったけど・・・。

英士が自転車に乗ってくるのには、わけがあるんだ。

その意味を・・・あたしは知らない。

「先輩がね、英士の事、悪口ばっかり言うとか、人を見下してるとか言うからさ・・・怒鳴ってきちゃった。」

、なんて言ったの?」

「英士はそんな人じゃないって。」

「他には?」

「あ、先輩の事、何で好きだったんだろ、みたいな事言った。」

「・・・それでよかったの?」

「・・・・・・わかんないけど、今はよかったかも、って思ってるよ。」

きっと英士は『何で?』って聞きたいんだろうけど、教えてあげない。

英士の『自転車』の意味を教えてもらうまでは、ね。

「まぁ、がいいなら、それでいいけど・・・。」

「うん、大丈夫だよ。あ、ありがと。」

英士の家に着いた。

英士が自転車をとめてる間に玄関の前まで行って、待ってた。

「あ、あがっていいよ。」

英士は必ずこう言ってくれる。

そしてあたしの前に体をいれて、ドアをあけてくれる。

とことん、優しいヤツ。

・・・たぶん英士のこういうところを知ってるから、だから・・・

だからあたしは、先輩にあんな事言ったんだと思う。

「・・・あたしさ、」

「ん?」

「たぶん、先輩が好きなんじゃなくって、英士が好きだったんだよ。」

「・・・今さら?」

英士はドアを閉めてあたしの方を向いた。

「何で?」

「さっき結人がうちに来ていきなりがコンビニで男と話してた、って言ってたから、多分あの先輩だろうな、って思った。」

「うん・・・そうだったけど・・・。」

は・・・俺にも好きな人がいれば・・・って言ったよね?」

「え、うん。」

「・・・俺もの気持ちはわかってるつもりだったよ、今まで。俺はが好きで、は先輩が好きだった。でも先輩には彼女がいた。見事な三角関係だったね。」

「・・・そ、だね。」

珍しく英士がよく喋る。

こういう時って、英士が怒ってるか、自分でセーブできなくなってる時のどっちか。

「・・・って、英士あたしが好きって言った!?」

「言ったよ。」

「うそ、でしょ?」

「うそつかないよ、こういう時。ただでさえ、先輩の話を今まで聞かされてきてさ、今度は俺が好きだって言い出して・・・。気の多い女、って最初思った。一瞬ね。」

「・・・そのあとは?」

「やっぱり、好きだと思った。」

「・・・英士らしくないね、今日。」

「それは怒ってたからでしょ。」

「じゃあさ、どうしたら許してくれる?」

「俺の事、ホントに好きなの?」

「うん。」

「・・・好きって言ってくれたら、許すよ。」

「あたしは英士が好きだよ。先輩よりも、何よりも英士が大好き。」

案外さらっと言っちゃったからかな?

英士が何も言わない。

「英士・・・照れてんの?」

「違うよ。」

「あ、もう何でもいいや。ね、寒いから中入っていい?」

「いいけど、でも結人が・・・。」

「え?」

英士が言いたい事がよくわかった。

結人くんと一馬くんが玄関の前でしっかりと聞き耳をたてていたのは、事実。

ドア開けたら目の前にいるんだもん。

「・・・どーゆーこと?」

「・・・こーゆーこと?」

最後は笑って、笑って・・・。

涙が出て・・・嬉しいのか、辛いのか何もわかんなくって、どうしようもなくて・・・。

ただ、英士が頭撫でてくれたら、もっと涙がとまんなくなって・・・。

きっと、あの涙は“嬉しかった”からだと思う。

“初恋”の時は過ぎたけど、初恋は実らない、って言うでしょ?

そういうモンだった、って軽く考えたい。

それでも先輩を好きだった10ヶ月っていうのは本物で、全てが事実。

今あたしが英士を好きで、英士の彼女だって事も、何もかもが真実。

英士が好き、そう思えた事が幸せ。

あたしが今まで体験してきたもの。

これから体験するもの。

全ての真実は、あたしの思い出として記憶に残っていく。

それもまた、真実。