「一緒にいたい!」
「は?」
アンタは…何を言ってんのよ。
君の温もり
昭栄と一緒に歩き始めて10分。一向に到着はしない。
あたしたちが向かっているのはとある空港。
旅立つ先輩は、さん。あたしの部活の先輩で、昭栄の、好きな人。
昭栄はさんに告白をしようとしている。
で、今は練習中。
「いきなりそれじゃ引くって。昭栄はいきおいいいのは確かだけど、いきおいだけじゃやっぱダメだよ。もっとさんの事考えてさー。」
説教っぽくなっちゃうけど、それはさんと昭栄が幸せになればいいな、って思ってるだけなのよ。
でも、実際昭栄の口から聞いたときは、びっくりしたし、ちょっと、悲しかったよ。
あたしだって好きな人くらいいるもん。横に、一緒に歩いてる、多分一番仲はいいの。
高山昭栄。
「好きたい。俺と付き合って欲しか!」
昭栄は言った。
さんはびっくりしちゃって、やっぱり引きぎみ。
あれから30分。頑張って歩いた。
昭栄はあれから一言も喋らずにまっすぐ前を見て歩いていた。
「ごめん。うち、彼氏いるから。」
「は?」
「え?」
「には言ったはず、なんだけど。」
「嘘、…あ。」
昭栄が振られたのも、あたしのせいだ。
あたし、さんからちゃんと聞いてたのに…なのに…。
「ごめん…昭栄。」
「ええよ。」
昭栄はやさしく言った。
じゃあ、とさんと別れて、あたしたちは岐路についた。
「ごめんね…昭栄。あたしの所為だよね。あたしがもっとちゃんとしてれば、昭栄は振られずに済んだし、こんな苦い経験もしなくて済んだのに。ごめん。」
「ええよ。は悪くなかとよ!俺の魅力が足りなかっただけたい!」
昭栄は言う。ひとつひとつに力を込めていきおいがある、昭栄のしゃべり口調。
「昭栄らしいよ。ありがと。」
涙がこぼれた、昭栄のやさしさに。
「ええって。のことも好きっちゃから、許す!」
そう言って昭栄はあたしの頭を、ポンポン、と叩いた。
あなたの温もりを一番感じれるのは、冬。
あたしの大好きな冬。
あなたの恋が終わり、また始まりを迎えた冬。
一緒に歩く道のりは長くても繋いだ手から感じるのは、君の温もり。