やっと終わった…。
長かった期末テストの日々…。
ザワザワとクラスメイト達が次々と家へ帰って行く中、私は一人、席に座って、寝ていた…。
放課後木漏れ日のベンチ
「ちょっと、起きなさい。」
どこからか声がして、ほぇ?と目を開ける。
「全く、何時まで寝ているの?」
そこに居たのは、担任の鈴木先生だった。
「本当に、あなたは一体一日にどれくらい寝ているのかしら…。テスト中も普通に寝てるし…。全く…。」
ブツブツと言う鈴木先生を他所に、私は帰ろうとした。
…が、
「何帰ろうとしているのかしら?…貴方は職員室よ!あ、会議が始まるじゃない!職員室で待ってなさい!」
それだけ言うと、廊下を走って行く鈴木先生が見えた。
小さくはーいと返事をした私は一人取り残されて、どうしようかと考える。
職員室にだけは行きたいとは思わない。
あの教員が沢山いる中で一人じっとしているなんて、とんでもない。
帰ろうかとも考えたが、先生との約束を破るとあとで何が待っているかわからない。
だから、私はまた寝る。という方法をとった。
安眠している私の元に邪魔が入るのは更にその8分後の事。
「おい、何寝てんだ?」
そんな声が聞こえて、また先生かな?って目を開けて体を起こしてみる。
「あっれー?ゴメン、誰?」
「ゴメン、誰じゃないよ。全く。僕はね、椎名翼だって。」
「…えぇ!?椎名先輩…?」
「ホント、何で僕って言っただけで驚くんだろ…。」
「すいません…。」
目がぼやけていたとはいえ、先輩に向かって誰?といったことを少し後悔する。
椎名先輩は、同じサッカー部のキャプテン。
私はマネージャーだけど。
「っていうかさ、。何してんの?」
「何って…寝てましたけど?」
普通に返すと、パコーンと叩かれる始末。
「何するんですか!?」
「何が寝てたなんだよ。今日はこれからフットサルだって言ってただろ?」
「あ…」
すっかり忘れてた自分で…。
というか、フットサル、明日じゃなかったっけ?
「ったく、何やってたんだか…。」
「すいません…。」
「まぁ、いいよ。帰ろうぜ?」
「あのー…」
先に先生のことを言っておいて、帰ってもらおうと思った。
「実は、呼び出されて…。」
再びなるパコーンという大きな音。
「痛いですって!」
「何やって呼び出されたわけ?」
「寝て…」
叩かれるかとも思ったけど、先輩は呆れた顔をしていて、叩く気力もなし。って感じだった。
「ったく…。待っててあげるから。早く職員室行ってきなって。」
「え?でも…。」
「いいから。」
はーい。と返事をしながら職員室まで走る。
その間、椎名先輩が何をしていたかは、私の知らない事。
「鈴木先生?」
「はい、居ませんか?」
「会議みたいだからね。あと30分くらいで来るんじゃないかな?」
「そうですかー。」
職員室に行ってから気づいた、先生が会議だということ。
30分も待つなんて暇だなー。なんて考えていた矢先に、この先生の痛い一言…。
「そうだ、。お前のクラスのな…提出物、社会出ていないんだが…。」
「あ!それ数学もですよ?」
「理科も出てないなぁ。」
一斉に集まる視線に対し、私は何も反論が出来ない。
「暫く暇だろ?提出物関係やっててくれ。」
そういって先生は自分の席へと戻っていく。
他の先生も視線を自分の真正面へ戻して、私の方へは見向きもせず…。
嫌味ったらしい声でわかりました。と返事をして、教室へと再び戻る。
私の願いは、早く鈴木先生よ、帰ってきて。ということだった。
理由は、眠いのと…。もう一つ、ね。
「椎名せんぱーい!」
「あ、。終わったの?」
「いえ…。」
職員室であったことを椎名先輩に全て話すと…
「まぁいいよ。マサキなんかも同じ状況になってるみたいだから、手伝ってもらえばいいじゃん。勿論僕も手伝ってやるし。」
案外優しいトコもある椎名先輩に感謝しつつ、柾輝を呼びに行った。
「柾輝!!居る〜?」
教室を覗いた先に居たのは、私の目的柾輝と友達の。
「あれ?まで居るの!?」
「アッハハ〜柾輝と居残りくらっちゃってさー。それより、の方こそどうしたの?」
「私も居残り。寝てたら呼び出しくらって、職員室行ったら、先生いなくって。それで、提出物。」
笑い出す二人。
「何よー!」
「お前が悪いだろ、。」
「柾輝までー。柾輝は許してくれると思ってたのにー!」
「いや、許すとかそういう問題じゃねぇだろ…。」
笑いながら言う柾輝。
「ねぇ、暇だからさ、のクラス行っていい?柾輝と二人じゃぁ、、会話続かなくってさー。」
苦笑いしながら言う。
自分で自分の名前を呼ぶという癖のあるはどこか天然で、どこか明るくて、見てて面白い。
「私はいいけど、椎名先輩居るよ?」
「マジ?寧ろOK♪」
ご機嫌そうに言うは、椎名先輩に気があるみたいだった。
というか、多分そうなんだけど…。
「じゃあ、一刻も早く先輩に会う為に先に行くね〜♪」
走り出したの後姿を見て、柾輝は…悲しそうな顔で…。
「柾輝?どうしたの?」
「いや、別にどうもしねぇけど?」
トボトボと歩く二人の歩調は合っていて、クラスまでの間少しの話が出来るな。と思った。
「柾輝って、の事、好きだったりする?」
何となく口から出た言葉を聞いて柾輝はパッとこっちを向く。
「あ、そうなんだ?へぇ。」
「でも、アイツあぁだろ?」
「まぁそうだねー。が相手じゃ、大変かもよ?」
「いや、俺は別にいいし。寧ろ面白そうだからな。」
笑いながら言う柾輝は、本当にのことが好きなんだな、って思った。
そうこう話している間に、教室に着いた。
「遅いじゃん、。」
「すいませ〜ん…。」
「ったく、早く終わらせようぜ?」
「はーい。」
やる気のない返事をするとどうなるかわかっていたので、少しのやる気を見せる。
「翼先輩!ちょっと、いいですか〜?」
が、椎名先輩に声をかけて、何?と推名先輩が返事をする。
うわ、何時の間に?なんて思った私は、気づけば、柾輝と二人取り残されていた。
「柾輝…。」
「いや、いいんだって、俺は。どうせ、こんなんだし。」
柾輝がどうしても可哀想に見えた…。
気づけば、泣いていたのは私の方で…。
「ちょ、?」
「!?柾輝、どうしたの?コレ…。」
コレというのは私が泣いてるということで…。
多分だけど。
「何か、急に…」
「、どしたの?」
ただ首を振って誤解を解こうとする私は、無力だった。
「大丈夫…。ゴメ…なさい。」
すぐに涙が止まったのは有難かった。
その頃には作業が再開していて、も推名先輩も、柾輝も。
皆で提出物を整理していた。
「出来たじゃん?」
「あら?皆、提出物してくれてたのー?」
声がして振り返ると、会議から帰ってきたらしい鈴木先生の姿があった。
「あ、丁度よかったのよ。寝てたから、さんにやってもらおうと思っていたの。今日はもう帰っていいわよ。お疲れ様。」
最初から言っとけ!って思ったのは私だけではないと思う。
帰る準備を始める。
やっと帰れるんだな、なんて実感しながら。
「帰ろうぜ!」
ノリノリ気分の推名先輩は、帰る気満々だった。
見ていて普段このような顔を滅多にしない推名先輩だったから、いい物を見たなんて思う。
「柾輝も、も帰るよ?」
「はーい!」
「おー。」
そう言って、四人で歩いていく道は、楽しかった。
いや、過去形にしないほうがいいね。
楽しい。
それ以外にどういえばいいかは、わからない。
また、こんなことがあるといいななんて思う私は贅沢人なのだろうか?
「あ、私ここだから!じゃあねー!」
の家の前まで着いて、別れを告げる。
「うんっ!また明日ね!」
「明日は休みだよ。」
横からする声は推名先輩が入れた声だった。
「じゃなくって、またね!」
「うん!バイバイ!」
手を振って家の中に入っていくは、ご機嫌のようだった。
「あ、そうだ。柾輝、先に帰っててよ。僕はの家まで送っていくから。」
「はいはい。」
そう言って柾輝は自転車を走らせた。
「バイバイー!」
帰り道の途中、二人で公園に入った。
そうして、手近なベンチを探して座る。
「うわー、気持ちいいね、ココ。風通しいいし。」
「ですねー。椎名先輩、ココに公園あるの知らなかったんですか?」
「普通でしょ。僕この辺滅多に来ないんだから。」
「普通なんですか?それ。」
「さぁ?」
自分で言っておきながらさぁ?なんていう推名先輩が可笑しかった。
「ねぇ、。」
「なんですか?」
「いい加減さぁ、推名先輩ってのと、敬語…やめない?ってか、やめて欲しいんだけど。」
「え?何でですか?」
「ったくさぁ…。好きな人にそうやって呼ばれてたり、敬語で話されてていい気がすると思う?」
「そりゃぁ…しない…と、ってえぇ!?」
「リアクション、大きすぎ。」
「だ、だ、だって!」
そうよ、だって、あの推名先輩だよ?
「ったく、僕だって普通に人間の男の子だってんの。」
確かに、そうかもしれないけど、普通とは思えない…。
「で、どうなのさ?」
「ど、どうって?」
「僕のことだけど。」
なんとかして話を逸らしたい。
「あ!今日、フットサルじゃぁ…」
「それね、明日だよ。こうやってちゃんと二人になるための口実。」
にっこりと言う椎名先輩は計画済みだったということ…。
妙に悔しい…。
「で?早くしてくれないかなぁ?」
そんなの言われたって…ねぇ。
「待ってくれません?」
「駄目。」
きっぱりと断られ私は自分の気持ちを考える。
確かに、椎名先輩のことは、いいと思うけど…一つ気がかりなのが、。
「あの、先輩…?」
「翼。」
「ほぇ?」
「翼だって。」
「えっと、…なんて言ってたんですか?」
「あぁ、それね。ならいっか。いつか伝わるだろうし。柾輝とどう接すればいいかわかんないんだって。」
「へ?」
「柾輝のこと好きなんだよ、は。」
「え?じゃあ…」
「そういうこと。」
推名先輩は全てを知っていたらしい。
知らないのは私だけだったみたい。
二人は両思いだった。
「でさぁ、がどうかしたの?」
「いえ、別に…。」
はぁ、そういうことだったのかーなんて、一人で納得してみた。
「ねぇ、しつこいみたいだけどさ、僕はね、の気持ちが聞きたいわけ。」
「はぁ…。」
どう答えればいいのかわからない。
ただ…二文字の答えでもいいのかな…?
私の気持ちは…
「好き。」
たった二文字で表せることが出来た。
「流石じゃん?」
「それは、どういう意味ですか?」
「ん?流石は僕のってこと。」
いや、意味になってないですよ。なんてことはいえない。
「ね?呼んでくれるんでしょ?僕のこと翼って。」
やっぱり、呼ぶべきなんでしょうか?
「つ…つ…」
なかなか上手く言うことが出来ない…。
「プハッ、『つ』ばっか言うなよなー。わー、腹痛ぃ…。」
それは、笑いすぎということらしい。
「翼!笑いすぎ!」
勢いに乗って呼んでみたけど、やっぱり恥ずかしくて…。
「うん。やれば出来るじゃん?」
「そりゃぁ、私だから。」
開き直った?っていうのかな?
でも、翼ということ。
そして、敬語で喋らないことに対しては、まだまだ慣れるのに時間がかかりそう。
でも、二人で少しずつ、慣れるために、一緒に歩いていこう。
ゆっくりでいいから。
そういって、私達はベンチを後にした。