「え?海外?」
「そ。すげーだろ?俺にお呼びがかかったんだぜぃ!」
「本当に・・・?本当に、海外行くの!?」
花火2 Ver.1
「へぇ、結ちゃんが・・・ねぇ。立派になったもんだわね。」
「うん。びっくりしちゃった。ねぇ、お母さん。」
「なぁに?」
「結人がさぁ、海外の生活に慣れて10年ぐらい帰って来なかったりしたらさぁ・・・結婚、とかしちゃうと思う?」
「あっはっははは!!そりゃそうでしょう。何よ、・・・アンタ、もしかして・・・?」
「違うわよっ!お母さんったら。もう・・・」
去年の花火から1年近くが経ちました。
変わった事といえば、私が中学校の教員になって英語を教えてる、って事くらい。
ちなみにあれからの結人と私の関係はというと・・・あれ?っていうほど変わってない。
ただ、前より逢ったり、とか、電話とかメールしたり、とかってのは増えた。
でも・・・一緒に居たら大変なことになっちゃうんだよね・・・。
それは、もちろん・・・。
結人め、有名になりやがって!このヤロウっ!!
「はぁ!?通訳・・・?」
電話から聞こえる言葉に思わず叫んでしまった。
「そー、そー。俺、通訳探してんだけどさぁ、いい人いなくって。でさ、英語教師だったろ?」
「ううん。数学教師。」
「え!?うそ!?」
「うそよ。」
うそぐらいつかないと何もできないの、私。
なんちゃって。
「・・・。まぁ、いいや。とにかく、俺と一緒にさぁ・・・向こう、行かねぇ?」
「急すぎるわよ。それに今、何月かわかってる?2月よ?もうすぐ3年生が卒業して、新入生が入ってきて、ますます忙しくなるのよ?」
「わかってるよ、悪かった。でもさ、俺やっぱがいいんだよ。」
「・・・私だって・・・結人なら、なんて考えちゃうよ。でも・・・」
「大丈夫。行くのは今シーズンが終わってからだからさー。」
「あっそう。」
「とりあえず、考えといて。1ヶ月、やるから。」
「ちょ、結人!?」
切った・・・。
切りやがった、あいつ。
・・・・・・まったく、何が通訳、よ。
自分で勉強しろっての!
まったく・・・。
「ちょっと、お母さーん!」
「・・・あらまぁ。結ちゃんがこんなを嫁にもらってくれるの?」
「ちょっと、私の話、ちゃんと聞いてた?」
「聞いてたわよ。どうするの?結ちゃんの傍にはいたいんでしょう?」
「そりゃぁ・・・ねぇ?」
「行けばいいじゃない?」
「でも、せっかく教員免許、とったばっかりなのに、さぁ。」
「いいじゃないの。向こうで教師しながらすれば。」
「・・・軽いね。」
「あら、私を誰だと思ってるの?」
「お母さん。」
「まぁね。」
まさにゴッドマザー。
さすがは私のお母さん。
私ももっと歳とったらお母さんみたいになるのかな・・・。
『もしもし?』
「あ、結人?」
『どしたー?。まさか、一緒に海外行ってくれるとか!?』
「そのまさかよ。」
『・・・うそ。』
「何よ、私じゃ不満なの?」
『ち、違うって!あんまりにも返事が早いからビックリしてただけだろ!?』
そう、あれから4日しか経ってない。
決断した理由は・・・
「私ね、やっぱり教師もいいけど、結人と一緒にいるのも悪くないな、って思ったの。」
『うわ、俺今逆プロポーズされた気分!』
「バカ!ちゃんと聞いてよね。」
『あ、はい・・・。』
「それに・・・また、結人と一緒に花火、みたい・・・から。」
『やっぱプロポーズじゃん。』
「だから、違うって!」
『あ、そだ。3月中には、迎えに行くから!』
「・・・はいはい。」
やっぱり、この歳にもなって彼氏がいない、っていうのは寂しいのかな?
おかしいのかな?
もうすぐ23になる。
私も・・・歳をとった。
結人も、同じだけ。
「え、海外・・・ですか。」
「はい・・・突然すみません。」
「そうですか。先生のような方が教師生活を1年で終えてしまうのは実にもったいない。ですが、向こうでも経験を活かし、がんばってください。」
「ありがとうございます。」
校長先生への挨拶・書類の提出はすんだ。
これで私は、来年度、学校からいなくなる。
「先生、本当にやめちゃうのー?」
「えぇ。小川先生には本当によくしていただいて・・・。」
「ほら、すぐそんな風に言うんだから。先生とは歳も近くてよかったわ。またいつか飲みに行きましょうね。」
「はい。」
教室に行った。
授業が始まる。
2月の今は学年末テストの直前、大切な時期。
中学1年生と言えども、これからの未来にかかわる大切な時期。
私は・・・教師らしい事が出来たんだろうか?
悲しみを見せちゃいけない。
たった1年。
されど1年。
一緒にいたこどもたちと離れるのは・・・やっぱり寂しいよ。
でももう決めたから。
私は、結人とともに行く。
「以上で終業式の行事を終わります。一同起立、礼。」
終業式の最中、気が気じゃなかった。
今日・・・私は迎えに来てくれる結人と一緒に海外へ行く。
荷物の準備はもうしてある。
お母さんも・・・少し寂しがってた。
でも、応援してくれた。
頑張んなくちゃいけない。
私のためにも、お母さんのためにも。
そして何より、結人のために。
「続いて、退任式にうつります。」
先生の合図でまた礼をする。
そして私は、何人かの先生とともに壇上へ上がる。
「・・・先生。都立○○中へご転勤になられます。・・・先生。ご退職なさり、海外へ行かれます。」
校長先生の紹介のあと、1人1人が順番に挨拶をしていく。
私の・・・番が来る。
「・・・です。
今年度この中学校の教員になりました。
そして、今日・・・私は旅立ちます。
私の教師生活はたった1年というものでした。
・・・ですが、この学校で仕事を出来たこと、そして何より、みんなと1年を一緒に過ごせて本当によかったと思っています。
私は、海外へ行きます。
教師を続けるかどうかはまだわかりません。
ですが、向こうでは通訳としてしばらくは働いていくつもりです。
これから先の未来、どうなるかわかりません。
自分にも誰にもわかりません。
でも、そのわからない先の未来を変えて行くことは、自分自身にしか出来ないんです。
未来の事を考えて、考えるのが嫌になったら・・・少し休んで・・・。
“人生”と“考える”という事は切り離せないことなんです。
しっかり考えて、いい未来を歩んでいってください。
先生方、本当にお世話になりました。
未熟な私を様々な方面から支えてくださって、ありがとうございました。
・・・生徒のみんな。
教師を初めて、何も教師らしい事も出来ずに、ごめんなさい。
でも、一緒に話をして、給食を食べて、勉強して・・・。
本当に楽しい1年でした。
ありがとうございました。
・・・夢を忘れないでください。
夢は、願わないと叶うことはありません。
夢を・・・見つけてください。
今日は・・・本当にありがとうございました。」
「先生!」
「どーしたの?」
「先生、いつ海外に行くのー?」
「・・・今日行くの。」
「今日!?先生めっちゃ早いですね。」
「まぁ、待てないみたいだから・・・。」
「?どーいう事ですか?」
「ほら、帰りの会はじまるから、席について?」
担任でもない私をしたってくれた生徒たちがたくさんいた。
すごく、うれしかった。
でもきっと、そういう事っていざ離れる、って時にならないとわからないものなんだと思う。
教室から1歩でるとやっぱり、さみしく思う。
何もかもが・・・遠く感じる。
「!」
「結人!?何で学校まで来てんのよ・・・。」
「だって、暇だしさ、が遅いからだぜー?ってか、ってサッカー部の顧問だったんだな。」
「・・・そうだけど?」
「さっきすげー質問攻めにあった。」
「あ、そう。」
そりゃそうでしょ。
普通の街中でも質問攻めにあうんだから、中学校なんかに来てみたら、興味津々な中学生がうじゃうじゃいるんだし・・・。
「今日部活は?」
「あるわよ。」
「・・・まぁ、時間はあるからなー。飛行機は夜の最終便だし、それまで暇だしな。」
「私は暇じゃないわよ。」
「じゃ、俺未来のサッカー選手たちに会ってこようかなー。」
「アンタ一応部外者でしょ!」
「きっと『先生の婚約者』みたいな事言ったら大丈夫だって。」
「ちょっと!結人、絶対そんな事言わないでよ!」
「わかってるって。」
そうして結人は背を向ける。
花火の時と同じ。
時間は4時。
もう、部活も終わる時間。
結局結人は、部活の間ずっとグラウンドで子供たちに指導をしていたみたい。
「俺もうヘトヘト。」
「プロがそれでいいのー?」
「ってか、アイツら若すぎだって。」
「・・・私らの半分くらいしか生きてない子たちだからね。」
「まー、俺らにもあんな頃があったんだよなー。」
「そうだね。」
夕暮れの職員室、差し込む夕陽。
『行こっか』の言葉。
うん、と答えて歩き出す。
さよならは、出会いの始まりって聞いたことがある。
そうなればいいな。
「さー、泣かなかったな。」
「いつの話?」
「退任式。」
「アンタ、見てたの!?」
「結構早く着いてさ。校長先生に頼んだら快く入れてもらえた。」
「・・・はぁ。あんなの見られてたんだ・・・。」
「あんなの、ってお前なぁ・・・。名演説だった。」
「・・・ありがと。」
結人とタクシーの中、空港へ向かう途中だった。
「・・・なぁ、。」
「何よ?」
「俺さー、やっぱと一緒に行けてよかった、って思うよ。」
「いきなり何言い出すの?」
「・・・俺とさ、」
そこまで言って言葉に詰まって、照れてる結人。
「俺と、何?」
「・・・あとで言う!」
むきになってる。
かわいい、って正直に思う。
「俺と結婚しよ?」
「・・・いきなりだね。」
「あれ・・・海外に行くって言った時の方が驚いてない?」
「だって、さっきのタクシーで心構えは何となく出来てたから。」
「・・・あ、っそう。」
「いいよ。」
「・・・うそ。」
結人は私が海外に一緒に行く、って言った時と同じ反応。
相変わらず面白いやつ。
「私も、結人が好きだから。結婚するんでしょ?よろしくね。」
「俺もが大好き!」
「ちょ、空港の中で叫ばないでよ!」
結人はただでさえ有名人なんだからちらちらと見られるのに、今度はじろじろ見られるよ。
空港に来ていたメディアにも囲まれて・・・。
もう、大騒動だよ。
まぁ・・・でも、こんな事も滅多にない事だし、経験しておくのも悪くはないよね。
向こうに行ったら・・・結人との楽しい暮らしが待ってる。
あぁ、恋しい海外。
早く、私と結人だけの空間へいけますように。