小さな命の中で何かをまっとうする事ができたら、
きっと・・・幸せな想いのまま
死んでいける気がする。
花
「うん、今日は体調よさそうだね。」
「本当?」
「本当だよ、ちゃん。」
あたしの名前は。
中2、武蔵森に通う・・・はずなんだけど。
あたしは今・・・病気で入院してる。
都立の大学病院に。
昔から心臓が弱くて・・・よく入院してる。
「あ、どうもこんにちは。」
「渋沢先輩!来てくださったんですか?」
「あぁ、渋沢くん。ちょっと待っててくれ。」
「・・・はい。」
彼・・・渋沢克朗先輩は、あたしが所属してるサッカー部のキャプテン。
もちろんあたしはプレイヤーではなく、マネージャーなんだけどね。
病室から先生が出て行くと入れ違いに先輩が入ってきた。
「こんにちは、先輩。」
「元気か?調子はどうだ?」
「元気ですよ!今日は調子がいいんです。」
「そうか、それはよかった。」
先輩が笑う。
穏やかな笑顔・・・。
「今日は、何だか病院が騒がしいんだな。」
「そうですね。あんまり、気にしませんでしたけど。」
そんな会話をしていると、大きくドアが開いた。
「こんにっちはー!!ちゃん元気―?」
「誠二くん・・・!?」
「ごめんね、さん。誠二がうるさくて。」
「笠井くん・・・?」
「ったく、迷惑なんだよバカ!」
「三上先輩・・・。」
サッカー部の・・・友達と先輩。
明るい政治くんと、落ち着いてる笠井くんのコンビはクラスの中でも人気者。
同じクラスだから、あたしもよく話しはしてる。
三上先輩はあんまり話した事ないけど、時々話すと優しくて、面白い。
・・・普段はムスッとしてるけど。
「どうしたんですか?3人そろって・・・。」
「このバカが見舞いに行くって言い出してな。笠井だけじゃ不安だからな・・・このバカは。」
「三上先輩っ!ひどいっスよ!さっきからバカバカって!」
「うるせぇ、バカ代。」
この2人もおもしろいんだ。
三上先輩と誠二くんのこんな感じのやり取りは部活中にまで発展してる。
よく見かける光景だった。
今まで静かだったこの病室がこんなふうになるなんて・・・。
こんな楽しいことはない。
「ごめんな、。大勢で押し寄せて。」
「とんでもないですよ!みなさんに来ていただいてすっごく嬉しいんですよ。」
「ちゃん、俺今、すっごーく嬉しい!ね、また来ていい?」
「もちろん。誠二くんに来てもらえるとあたしも嬉しい。」
「、気ぃ使うなよ。コイツいたらうるせぇんだから・・・。」
「大丈夫ですよ、三上先輩。」
「そうか・・・。」
三上先輩がちらっと笠井くんを見る。
すると、それに気付いた笠井くんは、椅子から立ち上がる。
「じゃ、俺たちはそろそろ帰りますね。」
「え?もう帰っちゃうの?」
「そうだぜ、タク!もうちょっと・・・。」
もうちょっといよう、ってそんな事言いたかったんだと思う。
でもそれは三上先輩の右手から繰り出されたパンチによって遮られた。
「藤代、てめぇわかってんだろーな・・・。」
「俺が悪かったッスよ!ただ忘れてただけッス!」
「それじゃ、キャプテンお先に失礼します。さん、またね。」
「じゃあな。」
「ちゃーん!バイバーイ!」
嵐が去っていったみたいだった。
やけに長く滞在した嵐だったけど。
・・・また、渋沢先輩と2人きり。
「・・・ったく、あいつらは・・・。」
「うるさいくらいがいいんですよ。」
「・・・やっぱり1人で病室にいるとさみしいのか?」
先輩って、いたいとこついてくるな・・・。
さすがは武蔵森サッカー部をまとめるキャプテン。
「そりゃぁさみしいですよ。1人だと・・・。あんなうるさい事ってまずないですからね。」
「・・・そうか。」
「でも、もうだいぶ慣れたんです。だから、大丈夫。」
「そんな事言うなよ。は、さみしいならさみしいって言った方がいいと思うんだが・・・。」
「だって・・・。言ってしまうと、自分が『さみしい』って思ってる、って認めてしまう事になるでしょ?・・・それが、嫌なんです・・・。」
「俺が毎日会いにくる。少しの時間でもあったら、何度もに会いにくるよ。」
「・・・先輩・・・。」
「俺は、が好きなんだ。」
うれしい・・・うれしいよ。
でも・・・
「ごめんなさい。あたし、渋沢先輩が好きって言ってくれた事、すごくうれしいし、あたしも渋沢先輩の事好き。・・・だけど・・・。」
あたしは・・・
「いつ死ぬかわからないから・・・。」
「それでもいいさ。」
「・・・でも、」
「たとえいつ死ぬんだとしても・・・俺がを好きな事に変わりはないよ。だったら今、振られて、悲しい時間をすごすより、少しでも幸せな時間をすごしてから・・・その方が楽しい想い出がふえるだろ?」
「先輩・・・。本当に、あたしが・・・好きなんですか?」
「あぁ・・・。」
「あたし、先輩と付き合いたいです。・・・ただ・・・。」
「ただ?」
「・・・1つだけ条件付けてもいいですか?」
「何だ?」
「・・・あたしは病室に1人で・・・さみしい、から・・・死ぬまで毎日あたしに会いに来てください。」
「・・・当たり前だ。」
小さな命の中で、あたしがまっとうできた事って、何だろう?
具体的な事は、全然わかんない。
でもきっと、死ぬまでに見つけられる気がした。
毎日会いに来てくれるって言ったから、だから・・・生きていけるきがしたから・・・。
だから、まだわかんなくてもいいでしょ?
これからの人生、もう少しの時間でも残ってるなら、そんな事考えなくてもいいよね。
・・・だってあたしは・・・生きてるから。