あたしがあなたの白紙のページを見つけた時・・・
あなたは、何を言ってくれますか?
白紙のページ
「えーっと、俺、さんが好きなんだよね・・・」
そう控えめな感じで打ち明けられたのは月曜日の放課後、体育館裏にて。
まぁベタな場所だわ。
どうせ最初から断るつもりで来てたんだもん。
「ごめん、彼氏いるから。」
「そ、そっか。あ、ありがとね。これからも友達でいてな?」
そう言われた。
だけどあたしは何も言わずに相手の方に笑顔だけ送って帰った。
ってか、あんた誰?って感じだし。
初めてみた人だった。
聞いた話だと同じクラスなんだって。
今まで一度も話したことなかったのに友達?
笑わせないでよね。
「圭介。」
「あ、。終わった?」
「終わったよ。帰ろ?」
「いや、俺まだ終わってないし。」
さっき言った彼氏っていうのはこの人のこと。
山口圭介。
幼なじみ、っていうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
「ねぇ、何が終わってないの?」
「部活。」
「わかった。待ってる。」
圭介とは付き合って2年目になる。
中2の夏、部活帰りのアイス屋で告られた。
もちろん、あたしも圭介の事好きだったし、嬉しかったから、「うん」って言った。
それから意外と平凡な日々を続けていた。
圭介とは一緒に遊びに行ったりもしたけど、それは今までもこれからも変わらない。
「ごめん、終わった。」
「ううんいいよ。」
あたしらの決まりは部活帰りは必ず一緒に帰ること。
圭介はサッカー部で遅くまで練習してるけど、あたしは部活はやってない。
だけど、高校に入ったら軽音楽部は入りたいんだ。
だからいつも教室でギターを片手に圭介がいるグラウンドを眺めてる。
「今日、何て言われた?」
「何がー?」
「アイツ・・・。」
「あぁ、あの人ね。別に、好きって言われただけ。」
「・・・ふーん。」
「何?妬いてんの?」
「別に。」
圭介、って意外と怒りっぽい、っていうか独占欲が強い、って感じかな?
「大丈夫だって、あたしが好きなのは圭介なんだから。」
「・・・ホント?」
「ホント。」
子供っぽい。
かわいい、圭介。
そんな圭介を昔から知ってる。
嬉しいことだ。
「俺も、が好き。」
「知ってるよ。」
「・・・意地悪。」
「いいでしょ、別に。」
こんな楽しい日がいつまでも続くと思ってた。
あの日までは。
「あ、山口先輩!」
「・・・あぁ、さん。どしたの?」
「コレ、ユニフォーム直しておきました。」
「サンキュ。」
この時あたしはこの女の子を初めて見た。
「圭介、あのコ誰?」
放課後だった。
「マネージャーのコ。」
忘れ物を教室に取りに帰ったときだった。
「ふーん。」
走ってきた、かわいい・・・子。
「妬いてる?」
妬くよ、それは。
「うん。」
あたしも、圭介と同じくらい独占欲強いんだから。
「嬉しい事言うねぇ、サン。」
好きだよ、圭介が。
「そりゃどーも。」
でも、嫌な予感がするんだ。
「―」
あのコ・・・が怖い。
「何よ。」
あのコの視線が・・・全てが・・・
「べっつに。」
怖い。
「山口先輩ー!」
「あ、さん。」
「こんにちは。」
「ども。」
ほら、まただ。
「またあのコだね。」
「あぁ、さん?」
「さんって言うんだ。」
「あれ?言ってなかったっけ、俺。」
「うん、言ってない。」
「えーっとね・・・・・・何とかって言う子。うちの1年の子だよ。」
「何とか、って圭介名前覚えてないの?」
「だって覚えれねぇもん。」
「あっそ。」
ちょっと安心した、って言ってもいい?
圭介がさんの名前覚えてなくて、正直嬉しかった。
少しだけ、心に余裕が出来た気がした。
「、今度の日曜日暇?」
「日曜日?暇だけど、何で?」
「俺、練習休みになった。」
「ホント?」
「おー。んで、どっか遊びに行こ?」
「行くー!」
久々の・・・圭介とのデート。
1ヶ月ぶりくらいかな?
ここのところ大会が近かった圭介は練習が忙しかったみたい。
先週大会も終わったから、今週休みになったんだろうね。
「どこ行きたい?」
「ゲーセン!プリクラ撮ろ?」
「色気ねーなぁ。」
「いいでしょ別に!」
日曜日まで指折り数えた。
片手じゃ足りない日数に嫌気がさす。
早く、圭介と一緒に・・・。
「!」
「圭介、もう遅いよ。」
「悪いって。寝坊したんだって。」
「知ってるよ!」
「怒んな、って。な?」
圭介は約束の日曜日、遅刻をした。
理由は寝坊。
疲れてるんだよね。
ホントは家でゴロゴロしたりしたいよね?
ごめんね、ありがとう。
「じゃ、電車乗る?」
「乗る!」
あたしたちの家の周りにはあんまり遊ぶ場所はなくて、定番は電車で数駅行った場所。
色んなデパートがあったり、映画館やファーストフード店。
少し都会かな?と思えるそんな場所にあたしたちは来た。
「まずどーする?」
「ゲーセン!」
「やっぱ色気ねぇな。」
「色気欲しい?」
「いらね。」
楽しい日々。
こんな時を待ってた。
そんな風に楽しい会話をしながら、あたしたちは一枚のプリクラをとった。
ゲーセンの中に置いてあるはさみで一枚ずつ切って、携帯に貼った。
おそろいのケータイ。
おそろいのプリクラ。
あたしと圭介は仲良し、って言えるよ。
「圭介、大丈夫?」
「・・・ん?あ、あぁ。だいじょーぶ。」
やっぱり圭介疲れてる。
時間は1時をまわったころだった。
「圭介、帰ろ?」
「何言ってんだよ、まだまだ遊び足りないだろー。」
「ダメ。圭介疲れてるんだから。」
「じゃ俺んち来て。」
「・・・それならいいよ。」
圭介の家にはよく行く。
休みの日に遊びに行くのは珍しくて、いつもはどっちかの家にいる。
「じゃ、帰ろ。」
また駅へと向かう。
大きな駅。
着くと電車の時間までは結構あったけど、圭介を休ませるために、ホームへ行く事にした。
「家で何する?」
「圭介は寝るの。」
「俺が寝たら、何すんの?」
「・・・んー、圭介の家にあるゲームでもしとこっかな。」
「ダメ、俺もする。」
「じゃあやめた。」
「なんだよ、それ。」
家に帰ってから何をするか、明日の授業、サッカー部の話。
何を話しても楽しいよ。
「あ、電車そろそろ来るね。」
話してる間に時間は過ぎて、電車がやってくる。
もうあたしたちの前を通過しようか、というそのときに後ろから誰かに押された気がした。
・・・誰かが叫び声をあげた気がした。
「っ!」
「圭介―っ!!」
大きな、音がした。
何で・・・誰が?
「・・・圭介?」
止まった電車、見える赤い血。
「圭介、ねぇ?返事してよ?」
線路の上に圭介は横たわっていて・・・。
あれ?
何で?
あたしが、後ろから誰かに押されたんだよ?
でも・・・そのあとにまた、前からも押された気がした?
「・・・圭介っ!」
線路におりようとしたあたしを駅員が止める。
「下がって!危ないから、下がって!」
「圭介!圭介!」
嫌だよ、圭介。
「圭介―――――!!!」
「?」
「・・・お母さん・・・?・・・け、圭介は!?」
「・・・、大丈夫?」
「大丈夫。ねぇ、お母さん。圭介は?」
「・・・ごめんね、圭介くん・・・に今は会えないんだって。」
「どーして!?ねぇ、お母さん!どーして?」
かなり大声で叫んでたような気がした。
「・・・お母さん圭介、どこにいるの?」
「と同じ病院内にはいるわ。」
「・・・あたし、病院にいるの?」
「そうよ。あなた、電車の人身事故に巻き込まれたのよ。」
「・・・そうだ、圭介が倒れてたんだ・・・。お母さん・・・誰があたしを殺そうとしたの?」
「そ・・・それは。」
「それはこちらからお話しますよ。奥さん、医師からの許可はおりてます。席をはずしていただけますか?」
「・・・はい。よろしく、お願いします。」
誰?
このおじさん。
あぁ、わかった。
警察の人でしょ?
「えーっと、俺は田中だ。警察の者だ。」
「・・・。」
「えーっと、さん。大変だけど、話してくれるか?」
「・・・あの日、あたしは圭介と一緒に遊びに出掛けた。」
久々の休日だから、気を使って圭介はあたしと一緒に遊びに出掛けてくれた。
午後になって、圭介に疲れが見え始めたから、帰ることにした。
駅には早くついたから、ホームに並んで、電車を待ってた。
圭介とあたしは並んで横にいた。
だんだん人が増えてきて、電車が来たとき、あたしは後ろから誰かに押された。
でも、押されたあたしは、また前から・・・きっと圭介だと思うけど押された。
そしたらいつの間にか圭介は線路の上に倒れてた。
「・・・そうか。」
「圭介は?」
「・・・生きてるよ。」
「ホント?」
「ただ・・・。」
「ただ?」
「足と腕を一本ずつ、失ったんだ。」
「・・・・・・え?」
「倒れた場所が悪かった。倒れた山口圭介は、右足を線路の上に投げ出して、その上を止まれなかった電車が走り去った。右手も、同様だ。」
「・・・嘘、でしょ?」
「・・・突き落とした犯人は捕まっている。」
「誰が・・・」
「、山口圭介の部活のマネージャーだ。」
・・・。
犯人の名前はそういう名前だった。
あの、女の子。
、サッカー部のマネージャー。
「は現在取り調べを行っている。」
「・・・何で、突き落としたって?」
「は山口圭介が好きだった。山口圭介の彼女のが邪魔だったんだ。それで、殺そうとした、という事だ。」
あたしは、殺されそうになった。
それを圭介がかばってくれたんだ。
「これを見せてやろう。」
そう言って田中さんは一冊の分厚いノートを渡してくれた。
「・・・何、これ?」
「山口圭介の日記だ。」
「何で、こんなの見せてくれるの?圭介が死んだわけでもないんだから。」
「とにかく見てみろ。」
○月×日
今日も部活だ。
は相変わらず教室からグラウンドを眺めている。
部活が終わってと一緒に帰る時間が俺にとって1番の幸せだ。
最近は1年生も入ってきて、忙しい日々が続いている。
と一緒にいれる時間はなかなかないけど、一緒にいるときは、を大切にしたい。
○月△日
今日も部活だった。
最近入ってきたマネージャーの・・・何とかの事をが妬いていた。
嬉しかった。
もしこれがにとって小さな事であっても、俺にとってはすごく、嬉しい事だった。
俺はやっぱりが好きだ、と改めて実感させられた。
○月□日
日曜日にと遊ぶ約束をした。
とどこか遊びに行くのは久しぶり。
今からすごく楽しみだ。
・・・最近がやけに絡んでくる。
に何もなければいいけど・・・。
○月▽日
「白紙・・・。」
「それが事故の日の日記だ。」
「・・・圭介。」
あなたの日記のたった1ページだけど、白紙のページがありました。
事故にあい、あなたは右足、右腕を失った。
・・・あたしを事故からかばってくれた。
その代償だったの?
何であたしをかばったの?
聞きたいけど、聞けない。
だってあなたが言う言葉がわかってしまうから。
「・・・圭介?」
「?」
「ごめんね、圭介・・・。あたしの・・・あた、しの・・・せいだ、よね?」
「違うよ。俺がを守ったんだ。この足と腕で。」
「・・・でも、圭介サッカー・・・でき、ない・・・よ、」
「大丈夫だよ。バランスはとりにくいけど、足は義足でも出来るんだ。が心配しなくても大丈夫だよ。」
「圭介・・・。」
「が好きだよ。俺が足も腕もなくても、俺はが好きだよ。」
「あたしも・・・圭介、が・・・好き。」
「知ってる。」
「ずっと、そばに・・・い、るから。・・・あた、しが圭介・・・の足と腕、に・・・なるよ。」
「ありがと、。」
わかってたから、圭介がそういう性格だって事。
あたしのために命をもかけてくれる、って事。
あの日記を読んでわかったよ。
今まであたしは本当に圭介に愛されていたんだね。
ありがとう、圭介。
あたしは、圭介に足と腕をあげる事はできないけど、代わりにはなれるよ。
ずっとずっと、圭介のそばにいるよ。
圭介の歩く道を一緒に歩くよ。
・・・どんなに険しく、凸凹な道であっても。
それが、1人で歩けなかったら、あたしが一緒にいるから、大丈夫だよ。
圭介、安心して?
いつまでもあたしがそばにいるから。
ずっとずっと・・・そばにいるから。
白紙のページを見つけた。
その日、あたしはあなたの愛を知った。
ずっと、愛され続けていた事、改めて知った。
これからあなたを今まで以上に愛して行くことを
あたしは今日、誓います。