君といつか、ちゃんと笑顔で会える日まで――――――
笑顔
『日生光宏様
一応、初めましてだね。
こうしてちゃんとお手紙を書いたのは初めてだよね。
私も、なかなか手紙を書くなんてことはないので、少し緊張、してたりする。
今、光宏くんはまた、サッカーしてるのかな。
いつか、私も光宏くんがサッカーしてるのみたいなぁ。
』
『へ。
手紙サンキュー。
うん、サッカーしてたな!
サッカーってスゲェ楽しいんだぜ!
にもサッカーやってほしいな!
早く、元気になるといいな!
光宏。』
『日生光宏様
こちらこそ、お返事ありがとうね。
早速、返ってきて、嬉しかったよ。
私も早くサッカーが出来る体になりたいな。
そういえばこの前、日本代表の試合があったよね!
私、ちゃんと見逃さなかったんだよ。
ホントにかっこよかったー!
』
『へ。
俺もちゃんと見たぜ、試合!
でもな、俺その日ちょうどさ、練習試合とかあってさぁ。
スゲェ疲れてたけど、見た。
かなり興奮しなかったかー?
改めてさ、サッカーの魅力に虜にされんだ、こういうトキって。
光宏。』
『日生光宏様
私も感じれたよ、サッカーの魅力。
消灯時間までしか見れなかったのは凄い残念!
しかもね、新聞見たら、私が見なくなってから、点数入ってるんだもん。
ビックリしちゃった。
私も興奮したなー。凄い楽しかったもん!
』
『へ。
も魅力感じられたかー!よかった、よかった!
今度さ、いつになるかわかんねぇけど、が退院できたら、
一緒にサッカーの試合見に行こうぜ!
俺さ、が退院するまでずっと待ってるから。
絶対行こうな!
光宏。』
『日生光宏様
ありがとう。
私も、早く頑張って退院するよ。
もう、入院してから、8ヶ月経ったんだしね!
そろそろ病院から出て、青い空の下に出たいよ。
光宏くんみたいに走り回れたら、気持ちいいだろうなぁ。
私は光宏くんが羨ましいよ。
私もいつか光宏くんと一緒に走りたいな。
』
『へ。
待ってるぜ!俺は絶対待ってるから、マジで頑張れよー?
8ヶ月か!?スゲーな。俺はまだ入院とかってしたことねぇからなー。
マジで気持ちいいぜ、空の下!
いっぱい太陽の光が俺の体の中まで入ってくる感じがして、マジで感動するぜ!
俺もさ、と走りてえなー。
光宏。』
『日生光宏様
今日は凄く重大で重要なお知らせをしなくちゃいけないの。
私ね、手術受けることになったんだ。
でもね、大丈夫。
光宏くんがそばにいてくれると思って頑張るね。
もし、成功したら今度こそ光宏くんに会いたいな。
』
『へ。
わかった。もし…って、こういう時にもし、とか言ってたらいけねぇよ。
成功したら会いに行ってやるよ。待ってろ。
俺の大好きなサッカーボール持って行ってやるからな。
待ってろよ。頑張れ!。
光宏。』
『日生光宏様
こんにちは。いよいよ、明日が手術の日となりました。
今まで本当にこうやって文通してくれてありがとう。
とっても楽しかったよ。明日の手術はね、難しいんだって。
お医者さんとお母さんたちが話してるの、聞いちゃった。
でもね、前の手紙にも書いたけど、大丈夫だよ。
頑張ってくるよ。
明日…光宏くんはいつも通りサッカーしててほしいな。
きっと、私はどこかで見てる気がするんだ。
だから、明日はちゃんとサッカーしててね。
』
『へ。
サッカーしてたよ。昨日は。
大丈夫か?元気になったか?連絡、くれよな。
絶対会いに行くから!絶対、何か連絡入れろよ!
今までの手紙読み返してたんだ。
俺らって、結構まだ付き合い短いよな。
最初は電話して、知り合った。
それから手紙を書き始めて。
手紙って、後に残るんだよな。
お前、まだちゃんと俺の手紙とってるか?
これからどんどん手紙が増えていくのがすっげー楽しみ。
光宏。』
『日生光宏様
初めまして。の母です。
いつも手紙をありがとうございました。
は、今危ない状況です。
手術は成功しましたが、まだ意識が戻らず、
こん睡状態に陥っているのです。
よかったら、会いに来てやっていただけませんか?
あの子の笑顔がもう一度みたいんです。
あなたの手紙を読んだ後はあの子、とても調子がよくて
よく笑っていました。
今までこうして笑顔で頑張ってこれたのもあなたのお陰です。
本当にありがとうございました。
もし、こちらへ来る事がよろしいのでしたら、
もう一度お返事くださいますよう、よろしくお願い致します。
』
『とお母さんへ
俺、そっち行きます。
電話番号書いておくんで、連絡ください。
、今から会いに行くからな。
光宏。』
『もしもし?』
「もしもし、日生光宏さんでいらっしゃいますか?」
『あ、はい。』
「私、の母でと申しますが。」
『のお母さん!?こんにちは。あの、いつ…』
「早いうちに…もう、あの子も危ないんです!」
『でも、手術は成功したんじゃ…』
「確かに、手術は成功しました。ですが…」
『何があったんですか!?』
「あの子の目は…覚めることがないかもしれないんです。」
『な、何で?』
「わかりません。とにかく、原因不明の病気でしたので…」
『わかりました。とりあえず、そっち行きます。』
俺の文通相手はって名前だった。
懐かしいな、この名前。
…早く目ぇ覚ませよ…。
でも、俺、これからに会いに行ってやるんだ。
…よく頑張ったな。
一人新幹線に揺られて、いざ東京へ。
長い道のりではあるけど、大丈夫。
の方がつらい目にあってきたんだから。
駅に着いた。ってか、電車多くてどれに乗ればいいかなんてわかんねぇよ。
「あ、日生さん、ですか?」
よかったー、の母さんが迎えに来てくれてて。
「はい。日生光宏です。」
「です。どうも、遠い所から来てくださり…」
「いや、いいんです。に俺も…会いたかったから。」
「そうですか。とりあえず、病院へ。」
「あ、はい。」
の母さんなんか、すげー若いし!
いいなー、俺の母さんも…なんてこんな事母さんの前で言ったら俺、ヤバイな。
「こちらです。」
「…?」
「……」
「わかるか?俺、光宏。初めまして…だな。一応。」
「……」
「目…覚ませよ。なぁ?」
「……」
「なぁっ!!」
「みつ…ひ、ろく…ん?」
「?」
「!?せ、先生!先生!!」
の目が開いた。
パッチリ、ってわけじゃないけどうっすらと細く。
に…会えたな。
「?俺…日生光宏。」
「う、ん。」
「俺さー、が手術成功したら会いに来るってちゃんと言ってただろ?
約束守って、会いに来たぜ?」
「ありが、とう。」
「いいって!早く元気になれよ、!」
「うん…」
「プレゼント。やるよ?ほら、サッカーボール。普通の病室に戻れたら、開けろよ?
いいか?ちゃんとが開けるんだぜ?俺の手紙、中入れたから。」
「う、ん。」
それから5分くらいかな?としゃべって、俺は廊下へ出た。
「日生さん、どうもありがとうございました。」
の母さんが俺の横へ立って、頭を下げてきた。
ってか、俺…頭下げられてるし…どうしよ。
「俺が…好きでやってるんですよ。と文通するの、ホントに楽しくて。
サッカーやってて、結構疲れて夜遅かったりとかして。
でも、そんな時にの手紙見たら…元気出て。
が頑張ってるんだから、俺も頑張らなきゃ、って。」
「本当に、ありがとうございました。」
あれから、数ヶ月。
からの手紙は来ない。
寂しいな、なんて気はするけど…仕方がないんだ。
でも、待ってるからな、。
俺は今日もサッカーして待ってる。
いつかと一緒にフィールドを走る日を待ってる。
長く長く待っててやるから。
「光宏ー?手紙来てるわよ。」
たいして若くは見えない母さんからのお呼び出し。
って、手紙…
「…?」
俺が急いで手紙をとっていくと、母さんは目を丸くしていた。
「…?、か?」
そうだ、だ。
封筒の裏には少し歪んでて前とは少し変わった字が並んでいた。
『日生光宏様』
変わらない書き出しと最後の締めくくる自分の名前。
懐かしい気持ちになって、俺はもう涙出てきちゃいそうで。
男らしくねぇな、俺って。
『日生光宏様
こんにちは。お元気にしていらっしゃいますでしょうか。
昨日、一般の病室に戻って来ました。
そして、今日早速あのサッカーボールの包みを開けたんです。
どうも、ありがとう。凄く嬉しかったよ。
中の手紙もちゃんと読んだ。
私ね、回復に向かってるんだって。お医者さんが言ってた。
きっといつか、光宏くんとフィールドを走る日が来るんだよ。
それまで頑張るね。
次会う時は、笑顔で会えるといいね。
』
『へ。
早速手紙ありがとな!俺すっげー元気になったぜ!
いやぁ、いいね、手紙って。
俺も頑張って、一人前のサッカー選手になるからな。
マジでフィールド走ろうぜ!
青空って、本気で気持ちいいから。
光宏。』
また、あの手紙から1ヶ月くらい経った。
から手紙が来なかったら正直凹む。
サッカーする元気はあるんだけど、その帰ってきた後だよな。
何か、疲れて何もする気になれない。
でも、そんな俺の所に一本の電話が入ってきた。
『もしもし…』
「もしかして、の…」
『はい。です。日生さん、ですよね?』
「は、はい!そうです。」
『実は…』
「…!何か、あったんですか…?」
お経を読むお坊さん。
頭の中には何も入ってこない。
…俺とお前の約束は?まだ終わってないぜ?
これからだぜ?何でだよ…
何で、死んじまうんだよ!
「お友達からの言葉を頂きます。日生光宏様。よろしくお願いいたします。」
司会の人が俺の名前を読んだ。
俺からへの言葉。
「へ。
こんな風に手紙を書いたのは久しぶり。へ送った手紙。
あれから返事返って来なかったけど、ずっと待ってた。
が頑張って来たのはよくわかってるよ。
ずっとフィールドで一緒に走るって言ってたもんな。
俺も、待ってた。待ってたんだ、ずっと。
それでももう、はいないんだよな…。
何か、寂しいな。
俺、それでもと一緒にいたいから。サッカーやめない。
だから、頑張って行く。
プロになって、巧くなって、代表。それから俺、世界に行くから。
見てろよ。絶対、俺の活躍見てろよ。生で見れない事、後悔させてやるよ。
いつかの手紙でさ、お前言ったんだぜ?覚えてるか?
手術の前の日に書いた手紙にお前、
きっとどこかで俺がサッカーしてるの見てるから。
って書いてたんだぜ?
俺、かっこよかっただろ?なぁ?そうだろ?
こうやって…質問しても、答えは返ってこないんだよな…。
寂しいよ、。ずっとさー、一緒にいたかったのに。
いつか一緒にフィールドを走るって約束だってあったんだぜ?
思い出せよ!戻って来いよ、!なぁ…
俺の前にもう一度姿見せろよ。
お前さ、次会う時は…笑顔で会いたいって言ってただろ?
俺…お前の姿見ないと笑顔でに会えないだろ?
だからさ…ちゃんと笑顔のが見たい。
でも、もう見えないんだよな。それが現実だろ?
それでもさ、生まれ変わってでも会いに来いよ。
じいさんになってでも待っててやるから。
ずっとずっと。現役バリバリのサッカー選手でいてやるよ。
待ってるからな!じゃあな、。
しばらくのお別れみたいだな。
俺が変わりにの分まで笑ってやるから。
今までサンキュ。ずっと好きだった。
といる時間がサッカーと同じくらいに楽しかった。
ずっと一緒にいたかった。会いたかった。
一緒に笑って話したかった。
じゃあ、な。またな、。
本当にありがとう。また笑顔で会いに来いよ。
光宏。」
へと届いたかな?俺の手紙。
長かったな、あの手紙。
あんなに長い手紙俺、初めて書いたかも。
でも、すげー読んでても書いてても思い出すのは
の事ばっか。
やっぱ、俺っての事、好きだったんだな。
好きだからな、
、待ってる。
5年後。
「決めた!決めたのは日生光宏!」
今日は、の命日だった。
あれから、5年が経ったんだ。
どんどんと過ぎて行く時の流れ。
俺はプロになった。
3年前にプロになって、今回初めてA代表に選ばれた。
デビュー戦は今日、の命日で、初得点の日も、の命日。
俺…もう19だぜ?大分年とったかな?
「日生光宏選手に来ていただきました。
いやぁ、代表デビュー戦で、見事な決勝ゴールでした。」
「ありがとうございます。」
「いかがでしたか?今日の代表デビュー戦は。」
「初めてにしては、まぁ。って感じで。」
「そして、デビュー戦で代表初ゴール。その時のお気持ちを教えてください。」
「何か、最高に気持ちよくって、昔思い出しちゃうような、そんな感じでしたね。」
「そうですか。次の試合は、強豪です。意気込みをどうぞ。」
「に負けないくらい頑張りますよ。とりあえず。」
「そうですか。お疲れ様でした。日生光宏選手でした。」
の事はまだ忘れられない。
こんな風に全国ネットで流しちゃうくらいに忘れられてないよ。
この前さー、んちの母さんの妹に子供が産まれたらしくって。
とすげー似てんの。サッカーボール、俺が渡してやったら凄く喜んでた。
その子の名前は、じゃないけど、だよ、きっと。
が生まれ変わってきたんだ。
きっとあの目の覚めなかった間に準備をして、死んですぐに生まれ変わった。
あの子は今、5歳。俺は19歳。
年の差なんて、関係ない、だろ?
なぁ、。
あとで会いに行くよ。の生まれ変わりに。
笑顔で。