「将くん?」
「そう、あたらしいおともだちなの!」
「あら、そう。よかったわね。」
「うん!」
笑顔でまだ笑えていたころ、私は母に話した。
風祭将、という人物のことを。
描いた夢
「将くん!」
「あ、ちゃん!」
「ねぇ、ねぇ!きょういっしょにあそぼうよ!」
「ごめんね、ぼく、サッカーしにいくんだ。」
「さっかー?」
「うん。」
「がんばってね。」
「ありがとう。」
小さいころなんて可愛かったよな、なんてアルバムを開いて思う。
笑顔で写る写真。将くんだけは一人、横を向いて…。
「ちゃん!ぼくのゆめはね、サッカーせんしゅになることなんだよ!」
って教えてくれたっけ…。
懐かしい。
今じゃそんな将くんも遠い人。昔は私も…。
「いつか将くんとけっこんするんだ!」
なんて言ってたらしい。
こんな話なんて笑っちゃうよ。よく言えたもんだ。
遠い存在の将くんにはもう、何年も会ってない。
中学のころに、将くんは脚に問題があるから、なんてドイツに行っちゃったんだもん。
連絡を取ろうにも住所も電話番号も知らない。
同窓会にも来ていなかった。
寂しいな、なんだか一人…。私だけ置いていかれちゃったみたい。
描き続けた夢は今も続く事無く止まっていた。
ずっと将くんを見ているはずなのに。
テレビの中に写る将くんを見るたびに私は元気になり、寂しくなり、悲しくなる。
改めて一人、置いていかれた感覚に陥る。
私の家に電話が鳴り響いた。
「はい…ですけど。」
無愛想に電話に出る。誰だかわからない。だって、向こうの相手はまだ喋らないんだもの。
「………」
「もしもし?」
「………」
電話を切ろうと耳がから受話器を遠ざけたとき、微かに聞こえた気がした。
将くんが…私を呼ぶように。
私の名前を将くんが呼んだように、聞こえた。
「ちゃん…?」
「将…くん?」
「あ、よかった!やっぱりちゃんだ。ごめんね、いきなり。僕、風祭将。覚えてる?」
「…本当に?…本当に将くんなの?」
「うん。今まで連絡出来なくてごめんね。日本には帰って来てたんだけど…ちゃんちの電話番号とかわかんなくって。」
「ううん。」
「シゲさんに聞いたら教えてくれた。」
「シゲが…」
「うん。…久しぶり。あのころの夢…まだ覚えてる?」
昔に戻ったみたい。あのころの記憶を取り戻し、静かに時計は動くように。
描いていた夢はまた動き始めた。
将くんが私を迎えにきてくれたみたいだったから。
元気?って聞いたら、うん。って昔みたいに優しく答えてくれたから。
前みたいにまた一緒に遊ぼうよ、ね?将くん。
描いた夢を忘れずに心の中にしまっておける場所は、あなたといた、あのころの記憶。