帰り道、あなたは必ず同じ歌を口ずさむ。

少し悲しいあなたの横顔

静かな手

遠くを見つめたその目は何を物語るの?

・・・あたしは、あなたの恋を知らない。

でもあなたへの想いは知ってる。

あたしは、あなたが好きです。




ドレミ




「黒川?」

「あぁ、。お前も部活帰り?」

「うん。黒川も?」

「おう。」

彼は、黒川柾輝。

うちのクラス、サッカー部の色黒くん。

落ち着いてる大人っぽさはクラス1。

「サッカー部も大変だよね、こんな暑い日に。」

「まぁな・・・。でも、やっぱサッカー好きだからな。」

黒川たちの所属するサッカー部は、昔廃部になった事があった。

『椎名翼』というアイドル顔の男の子が転校してきて、結局サッカー部を作ってしまった。

黒川は、はっきり言って不良みたいなヤツだ。

ただし、それは外見だけ。

見た目ほど、悪いヤツじゃない。

それはきっとクラスにいる誰もがわかってる事。

まぁ、一緒にいるヤツは嫌なヤツだけど。

「いいね、好きって思えるのって。」

は・・・何部だっけ?」

「あたしは、水泳部。」

「そっか。水泳嫌いなのか?」

「嫌いじゃ・・・ないよ。でも、好きじゃない。」

「何で?」

「・・・何でなんだろう。」

あたしっていつもあいまい。

ごまかして、ごまかして・・・

そうやって生きてきた。

水泳部に入ったのも、昔から運動だけは好きだったから、運動がしたかった。

でも、キツイのは嫌。

適度に運動が出来て、楽そうな部活、それが水泳部だった。

「よくわかんないや。」

「そっか。」

「・・・うん。」

それから黒川は何も喋らなかった。

あたしは知ってる。

次の交差点で黒川はあたしと反対方向へ帰るんだよね。

前に見たことがあるから、知ってるよ。

ずっと、背中を追ってた。

目で、耳で、全てで。

「じゃ、俺こっちだから。」

「うん。」

ほらやっぱりね。

黒川ともっと話しをしていたかったけど・・・出来ないよ。

あたしには、出来ない。

だって・・・自分がわかんないから。




・・・そういえば、黒川何か喋ってた。

違う。

歌を歌ってた?

小さく、小さくそっとささやくように。

あれは何の歌だった?

わかんない。

・・・わかんないけど、ただ・・・凄く悲しい歌だった。




何で、夏休みまでチャイムが鳴るんだろう。

そんな事あたしにはあんまり関係ないけど、関係ある。

今日だけは。

昨日と同じ時間に学校を出た。

黒川は・・・いる?

いない?

!」

「黒川・・・。」

「帰り?」

「うん。」

「そか。」

「うん。」

やっぱり、この時間だったんだ。

黒川があたしの背中を追ってくれた事、あたしは凄くうれしいよ。

「今日は練習どうだった?」

「別に、いつもどおりって感じだったぜ。相変わらず翼は厳しいけど。」

「・・・そっか。楽しそうだね。」

はどうだった?」

「・・・あたしも、いつもどおりだったかな。ただ、泳いで、泳いで・・・そのくり返し。」

「楽しく・・・なかった?」

「・・・そうだね。」

また黒川が黙った。

そして聞こえる、小さな声。

耳をすませる。

やっぱりくわしくは聞き取れない。

・・・あの交差点まであと少し。

「黒川・・・。」

「ん?」

「あたし、黒川が好き。」

言ってしまった。

あの歌の意味も、まだわかってないのに。

でも、チャンスは逃せない。

「黒川が昨日も・・・今日も同じ歌を歌ってた理由はわかんない。黒川の恋をあたしは知らない。でも、それでも・・・あたしは黒川が好きだよ。」

「・・・ごめん。」

「うん。」

「・・・死んだんだ。」

「・・・え?」

「ちょっと前、交通事故で、車の不注意だった。アイツは・・・は・・・何も悪くないのに、死んでいった。の事・・・忘れそうになる時がある。だから、アイツの好きだった歌を歌うんだ。」

「・・・そう、だったんだ。」

「やっぱり俺、まだを忘れられないから・・・。ごめんな。」

「うん。」

「じゃ、またな。」

「うんバイバイ。」

手を振った。

黒川が見えなくなるまで。

・・・さん。

黒川柾輝の元彼女。

享年・14歳。

先月17日、帰宅途中に車にはねられ死亡。

同じ中学だった黒川柾輝と中学1年生から付き合っていた。

・・・そりゃ忘れられないよね。

忘れそうになっても、黒川はすぐにふっと思い出すんだろうね。

・・・そんな風に想われてる彼女がうらやましい・・・。

もう、この世にはいないのに・・・

なのにずっと想われて。

あたしの想いは一方通行で受け止める人はただの幻想だった。

・・・やっぱりどうしても好きだった。

でもそれは、黒川のさんへの想いも同じだと思うから・・・。

あたしにはどうしようも出来ない。

あたしの力じゃ変えられない事。

仕方のない・・・事実。

涙を溜めて、また家まで1人で歩く。

そっと、ささやくあなたの声を思い出しながら・・・。