「えと、だからね。あたしは、三上クンが好き…なんですよ。だから、付き合って欲しいんですけど…。」
children under the couple
改まって告白するなんて、考えてもみなかったり。
普段は親しい仲だから、沢山喋って一緒にサッカー観戦したり、カラオケ行ったり、プリクラ撮ったりって。
中学生らしく、沢山遊んできたわけですよ、ねぇ。
世間一般でいう、「友達以上、恋人未満」ってわけですよ。
でもあたしは、そんな関係がこれ以上続くのがいやだった。
だから、言った。
友達には相談しなかったし、あたし一人の独断。
誰も知らない。
これはあたしと亮の二人の秘密。
「……」
「何で、黙るの?」
「いや、別に。」
「困ってるとか?」
「まぁ…」
「ごめん、急に。」
「いや、そうじゃなくて。」
亮は何か誤魔化すように答える。
誰もいない土曜日の午後。
校舎裏にはあたし達二人だけ。
部活の時間が終わってるから、今はみんな、部屋にいるはず…。
「いいぜ。」
「へ?」
「だから、お前が付き合いたいんだろ?いいぜ?」
「ほ、本当に!?」
「こんなトキに嘘ついてどうすんだよ。」
「だ、だって。信じられないじゃない?こういうのって。」
「ん、そーいうモンか。」
亮は言った。
『いいぜ』って。
だから、あたしはOKをもらうことができた、ってことだよ、ね?
未だに確信がもてないまま、一緒に寮へと向かう。
「ねぇ、亮―?」
「あ?」
寮までの道は、あまり長くはない、がそこまで短いわけではない。
十分に話をしながら帰れる距離だった。
「あのさー、あんまりあたし、付き合ってるってのを広めたくないんだけど。」
「は?何で?」
「何か…嫌なんだよね。千絵ちゃんがさ、今コンちゃんと付き合ってるって知ってる?」
「あ…、マジ?俺知らねぇし。」
「そうなんだ?まぁ、いいんだけど、付き合ってるのね。それで、千絵ちゃん今、女の子の間でちょっとしたいじめ、っていうのかな?からかわれてるって感じなんだけど、そうなっちゃってるの。」
「何でだよ?」
「ウチのクラスのりかちゃんがコンちゃんのコト好きだったらしくってさ。それで何か…さ。複雑なコトになっちゃってるの。」
「ふーん。で?」
「で?って…。まぁ、あたしもそんな風になるのはイヤだなって。だって、亮モテるでしょ?亮を好きな子なんて、沢山いるんだよ。たとえば、あの隣のクラスの中村さんとか、山田さんとか、ウチのクラスのちゃんとか。亮は知らないかもしれないけどさ。」
それから亮は、『ふーん』とか、『あぁ、そう。』とかしか言わなくって、あたしはどうしていいか困った。
でも、何か、今はいいかな、なんて考えてしまった。
「おはよー。」
朝の教室はすでに人が沢山いて、人が密集する時間。
その中でも、一番盛り上がりがあるのは、三上亮の机の周り。
男子から女子まで色んな人が集まっていて、そこはクラスで一番の過密地域。
亮は、妙な性格、というか変な性格してて、ちょっとイヤミたらしいヤツでもあるけど、それでも女の子にも男の子にも好かれてる。
「…」
「おい、が来たぜ?」
「……?」
あたしはわけがわからなかった。
あたしを見るのは、みんなの白く冷たい目。
その中でニヤリ、と笑うのは三上亮。
何だか、その目に自然と顔がニヤける。
だからあたしも、少し笑う。
「ちゃんっ!」
あたしを呼ぶ声がして、ふっと振り返れば見慣れた顔。
「あ、千絵ちゃん。おはよ。」
「ちゃん!こっち来て!!」
言われるがままに千絵ちゃんの背中について行く。
この校舎は広い。
初めて来た入学式でも思ったけど、いつまで経っても変わらず広く思える。
ついたのは、あたしの今では思い出の場所に出来る校舎裏。
もうあの出来事から二日も経った、あの場所だ。
「ねぇ、ちゃん。三上クンと付き合ってるって本当?」
「え!?な、なんで?」
「だってね、昨日ちゃんがメールをみんなに回したらしいの。見る?」
「う、うん。」
携帯電話のディスプレイに映った文字。
そして、証拠として突きつけるような写真。
「一昨日、ちゃん、ここで告白したの?」
「え…何言ってんの?千絵ちゃんは…ちゃんのそのメール、信じてるの?」
「だ、だって…。それにちゃんからのメール、もう一通あるの。」
ピッ、ピッと操作する音は、無言のあたしたちの間で響き渡っていた。
メールに添付されていたのは、写真じゃなくてムービー。
いわゆる、動画。
千絵ちゃんは、ムービーを流してくれた。
『えと、だからね。あたしは、三上クンが好き…なんですよ。だから、付き合って欲しいんですけど…。』
『……』
『何で、黙るの?』
『いや、別に。』
『困ってるとか?』
『まぁ…』
『ごめん、急に。』
『いや、そうじゃなくて。』
『いいぜ。』
『へ?』
『だから、お前が付き合いたいんだろ?いいぜ?』
『ほ、本当に!?』
『こんなトキに嘘ついてどうすんだよ。』
『だ、だって。信じられないじゃない?こういうのって。』
『ん、そーいうモンか。』
ここまでで終わっていた。
でも、はっきりと証拠にはなると思う、このムービーは。
「なんかね、ちゃんは、一昨日に校舎にいたらしいの。」
「何で!?」
「数学のノートとりに来てたんだって。」
本当は聞かれてない、見られてない、こんな時に人がいるわけない。
そんな勝手な決めつけを信じていたあたしがばかだった。
どうすればいいかわからない。
「ねぇ、このメールってどれぐらい広まってるの?」
「わかんないけど…。何か、知ってる人に回しといて、ってきたから、結構広まってると思うよ。」
「そ、っかぁ。」
「ちゃん、結構怒ってたみたいだよ?」
「え…?」
「やっぱり、ちゃんが許せないみたいだよ。ちゃん、三上くんが好きだから。」
「そ、そうなんだ。」
あたしは、動揺しまくっていた。
ちゃんは、クラスのリーダー的存在のりかちゃんと仲がいい。
あたしも…もしかしたら、千絵ちゃんみたいになるのかな?
教室に戻れば、またあの白く冷たい目が、あたしに突き刺さる。
黙って席につけば、周りを囲まれた。
「ねぇ、ちゃんっ!ちょっと…いい?」
不適な笑みだった。
連れてこられたのは、屋上。
「どういうつもり?亮と付き合うなんて!アンタと亮じゃ似合わなねぇんだよっ!いい加減にしろや!てめぇはな、大人しく亮と『お友達』でいればいいんだよ。あたしはな、1年のときからずっと亮が好きだったんだ。」
怒ったちゃんは、怒りをあたしにぶつけるように吐きつけた。
「てめぇには言わねぇけどな、あたし等には最高の仲間がいるんだ。アンタとは違うよ。弱々しい千絵なんかとあたし等を同類にすんなよ?覚悟しとけ。あたしから亮を奪った罪はでかいよ?」
そう言ったちゃんは、あたしを睨みつづけてた。
そんなとき、あたしの携帯電話が機会音を発しながら、鳴り出す。
「はっ、こんなときまで余裕ぶっこいてお電話、ですかー?いいね、亮の彼女さんは。」
そう言われて、あたしはわざわざ電話に出てやった。
だって、着信はあの、亮だったからだ。
『もしもし?』
「あ、うん。」
『大丈夫なのか?』
「うーん…まぁ、ちょいと無理っぽいけど。うん、大丈夫だよ。」
『そか…。、一緒なんだろ?』
「?そうだけど。」
『言っとけよ、俺のに手ぇ出すな、ってよ。』
「うん、ありがと。」
『じゃあ、とにかく。なるべく早く帰ってこいよ?』
「うん。わかってる。じゃあね。」
通話が終わり、ボタンを押そうとしたときのことだ。
「きゃー!!助けてー!!あ、が…!!が!!」
わざとらしい叫び声。
まるで、今までの立場を逆にするかのように。
ボカッ
鈍い音がした。
『おい!!』
電話からも再びあたしを呼ぶ声。
あたしは…呼び出されて、不安になって、どうしていいかわかんなくなって…。
今の状況、あたしが悪いみたいじゃない。
あたし、何もしてないよ?
気づけば、一人はあたしをかかえ、残りは、をかばうようにした。
いかにも殴られて、蹴られて、酷いコトされたみたいに、制服に足跡までつけて…。
「っ!!」
また、あたしを呼ぶ声。
いつもの、あたしの大好きな、声。
「亮…」
「おい、何があったんだ?」
ハァハァと息を切らしながらも問いかける。
「が…が…」
「さん、を殴ったの。」
「それで、あたし達がかばってたら、あたし達まで…」
ちゃんは、泣いてた。
もちろん、本当かどうかなんて知ったこっちゃない。
でも、確実に勝ったと思ってる。
ちゃんたちは、きっと、あたしに勝ったと思ってるに違いない。
「…」
「違うよ、あたし…。何もしてない!」
「嘘…。あたしね、亮に告白しようと思ったの。それでに一応言っておこうと思って…。」
「違うっ!!」
気づけば、あたしは叫んでた。
目から滴が落ちそうになって上を向く。
「あたしは何もしてない。本当に何もしてない。何もしてないのっ!!ねぇっ、誰か…あたしを信じてよぉ…ねぇ!!」
あたしの声なんて、誰も聞いちゃいない。
誰も、聞いてくれない。
あたしは…邪魔者だから。
あたしのことなんて、誰も気にしてやくれないの。
「…」
その場にしゃがみ込んだあたしを亮は優しく包んでくれた。
でも…
「どうなんだ?。お前は、本当にやってないんだよな?」
「うん。」
頷くあたしを見て、亮は頭をポンと叩く。
「、お前はどうなんだよ?」
「あたしだって…本当に何もしてない。怖くて、それどころじゃないよ、亮。あたし…に了解とろうとしただけなんだよ。なのに、あたし何で?」
「そか。」
そう言った亮はそっと、あたしを立ち上がらせた。
「どうするよ?お前ら、二人して違う事言われても…なぁ。」
「でも!本当に…」
「が、嘘ついてるんだよ?」
「ち、ちが…」
「亮に好かれたいからって、いつも亮の前では女の子らしくってさ…可愛かったでしょ?亮。でも、それがの本当の姿じゃないの。わかって?」
「何の証拠もねぇのに納得しろってか?」
「そうじゃない!ただ、気づいてほしいの。の本当の姿に。」
「本当の姿って…一体なんなんだよ。」
亮は困ったように下を向いた。
そこにはあたしの涙の後があった。
涙とアスファルトの屋上の床が一緒になって、シミになった。
「…他の男の子と…見ちゃったって…。」
「は!?」
「りかちゃんが…。」
「おい、、本当かよ?」
「うん、見間違いじゃないよ、三上クン。この前の…日曜日だったかな。男の人と腕組んで歩いてたがいたよ。それで…」
「あぁ、もーいいよ。」
亮は、今までりかちゃんに向けてた視線をあたしに戻して言った。
「お前、どういうことだよ…。俺だけじゃダメってか?」
「違う!この前の日曜日は、亮と一緒に映画見に行った!」
「え?」
「あ…」
亮は思い出してくれるだろうか?
一緒に見た映画。
『キミがいて、ボクがいる。』
「ほら!一緒に見たよ。覚えてるでしょ?あのあと、バーガーショップによってお昼食べてさ、遊園地、行ったじゃん!久しぶりの部活休みだったでしょ?一緒に出かけたじゃん!」
「あー、思い出した。」
「亮…よかった。」
「おい、。嘘つくんじゃねぇよ。」
「嘘じゃないわよ!だって、あたし見たの、夜だもの。」
「は?」
「夜…8時くらいだったかしら?私、家族と外食に出かけてたもん。見たよ、同じレストランで。」
「あははっ、ははっ!!」
「おい、。」
バカバカしくて笑えてきた。
だって…だって。
それ、あたしじゃなくて…
「ねぇ、それさぁ…あたしの妹かも…。」
「は…?何でだよ?っつーか、お前妹居たのかよ?」
「うん。双子の妹がね、桜上水に通ってるからさ。彼氏が出来たーって叫んでてさ、あの子らは夜に一緒にご飯食べにいってくる、って言ってたから。」
「ふーん…そか。じゃあ、黒幕は?」
「ちょっと待ってよ!」
遮るのはちゃん。
ちゃんはあたしに言った。
「だから何?違うでしょ?関係ないじゃない?そんな妹なんて。の本当の姿なんて、それだけじゃないかもしれないじゃない!」
「うるせぇよ。たとえな、が俺に告白する前にお前に言われたとしても、ぜってぇOKなんて言わねぇよ。」
「じゃなくって!亮、聞いて。があたしたちを殴ったのは本当よ?わかってよ、亮。」
「………。」
亮は黙り込んでしまった。
さすがにそこまでの証拠はない。
どうすればいいかわかんない。
また涙があふれそうになって、上を向く。
「うわ…いい天気だね。」
そう呟けば、みんなも上を見上げる。
もう一度、ちゃんと仲良くしたいな、ちゃんとも、りかちゃんとも、亮とも。
みんなの心もこの空みたいに晴れればいいのにな。
「そうじゃないでしょ!そんなことでごまかさないでよ。嘘つかないで!いい加減本当のこと…」
「それ、アンタ等にそっくりそのまま俺が返してあげる。」
背後から急に声がしたかと思えば、給水タンクの陰から手を振っているのは…
「藤代!?」
「誠二くん!?」
「三上先輩に先輩やっほー♪っと、あと、悪い人たち、こんにちはー★」
バツが悪いようにさっと目を逸らしたちゃんは冷や汗をかいているみたいだった。
誠二くんは…見てない?
ねぇ、誠二くんはあたしの…見方になってくれるのかなぁ?
「ねぇ、三上先輩―?俺、いいムービー手に入れたんですけど、見ますー?」
「は?」
「そこで言い合ってた人たちの証拠物件!」
「…!!」
無言の驚きを見せ、あたしたちは、誠二くんの携帯電話のディスプレイを大勢で囲んだ。
『どういうつもり?亮と付き合うなんて!アンタと亮じゃ似合わなねぇんだよっ!いい加減にしろや!てめぇはな、大人しく亮と[お友達]でいればいいんだよ。あたしはな、1年のときからずっと亮が好きだったんだ。』
『てめぇには言わねぇけどな、あたし等には最高の仲間がいるんだ。アンタとは違うよ。弱々しい千絵なんかとあたし等を同類にすんなよ?覚悟しとけ。あたしから亮を奪った罪はでかいよ?』
その二言。
そして、あたしの電話の場面。
『きゃー!!助けてー!!あ、が…!!が!!』
「わっかりましたー?悪いの…誰だっけ?」
「…っ!」
「てめぇら、よくも、泣かせやがったな。」
「知らないわよ、泣いたのはでしょ!が勝手に泣いただけじゃない!とにかく、あたしたちはもう知らないから!行こう、みんな!」
そういってちゃんはみんなと一緒に帰っていった。
「…悪ぃ。」
「ううん、ありがと、亮。嬉しかったよ。誠二くんもありがと。」
「どーいたしましてー!まぁ、俺も先輩の役に立ててよかったっすよ!」
「ってか、藤代、お前は何でこんなとこにいんだよ?」
「えー?お昼寝しに来たら、あとから先輩達が入ってきて、何か面白そうなコトが始まるなぁ、って思ってムービー起動っ!!」
「はぁ…お前最初から見てたんならを助けてやれよ。」
「いやー、出て行って、先輩が危なくなったらいけないからタイミング見てたらさっきのタイミングが一番だったんすよ!」
亮は少し怒ってるみたいだけど、よかった。
誠二くん、ありがと。
おかげであたしが嘘ついてないって、みんなに、亮にわかってもらえた。
「よし、帰るぜ?。」
「うん!」
「あ、待ってくださいよー、三上先輩!先輩!」
「あ、亮。」
「はよ。」
「今日は待っててくれたんだね?」
「まぁ、昨日みたいなコトになってもらっちゃ困るからな。」
「あ、うん。ごめん。」
「いいっての。さっさと行くぜ?」
「う、うん!」
そう言ったのは、亮。
だから、あたしのコトを少しは心配してくれてる、って思ってもいい?
ねぇ、亮、答えてよ。
未熟なあたしたちはまだ、相手のコトなんて、よくわかってなくて。
でも、これから見つけていくあたしたちは、「children under the coupl