第二章
目が覚めた時、ここは何処だろうかと考えてみた。
周りには、軍事服を着た沢山の大人達…そんな人たちの中にただ一人、女性の大人の人が居ることに気づいた。
その人だけは、軍事服じゃなくて、普通の服。
黒の半そでTシャツに、白のラインの入ったピンク色のジャージのズボン。
Tシャツにジャージという服装を見て、スポーツを思い浮かべ、結びつけてしまう。
あぁ、こんな服着てた人、見たことあるな…なんて思いながら私はゆっくり体を起こした。
「あら、お目覚めかしら?」
ふわっとした笑顔を見せながら言う女性の人が、私の目の前に立っていた。
ただ、立っているだけだったのに、凄い存在感というか、威圧感というか、その人の気に押しつぶされそうになりながらも、はい、と答える。
「そう。フフッ、あなたには期待してるわよ。」
その人は、それだけを言い、部下らしき人物に、状況は?とたずねていった。
誰だったのだろうか、思い出せずにいる。
似たような人は沢山思い出せるのに、その人の顔が逆光で見えずに、声だけでは思い出せない。
でも、聞き覚えがあるのは確かなのだ。
誰だろうか…?……西園寺さん?
もしかして、選抜監督の西園寺玲監督だろうか?
そう考えていると、フッと頭が痛くなる。
「…。いいかしら?一緒に来て頂戴。」
何の事かさぱりだったけれども、後ろを歩く。
逆光じゃなくなって、改めて確信する。
あぁ、やっぱり西園寺玲さんなんだな、って。
でも私はもうそこから何故か何も覚えていない。
「ここは…どこなんだ?」
俺は目覚めた。
あのバスの中から、いつの間にか眠っていたみたいだった。
あれから一体、何が起こっただろうか?
何があったのだろうか?
「お前…誰や?」
後ろから声がして、振り返ってみても、誰もいない。
「何処見てんねん…。前におるんやけど、僕…」
前を向いて見ると、椅子にちょこっと座ってるヤツがいた。
「お前…誰なんだ?」
「ちょい待ちぃ!それは僕が先に聞いたんやで?君は答えてくれへんの?」
「人に名前を聞くときは、自分から名乗るべきじゃねぇの?」
これを言ったのは、ただ自分のことを言うのがダルいだけだ。
「しゃぁないなぁ。僕は吉田光徳ってもんや。君は?」
「俺?俺は三上亮。お前関西弁喋ってっけど、関西のヤツ?」
「そやで。僕、これでも一応関西選抜のFWなんやで?」
選抜という言葉に対して、ピキッと反応する。
「そうか…」
暫く沈黙が流れる。
そんな時、俺は吉田から目をそらして、周りを見回して見る。
…!…だ、誰も、いねぇ……。
さっきからやけに静かだとは思ってたけど、誰もいなかったのか。
「なぁ、三上くん。」
また吉田のヤツが話しかけてくる。
「ここ…僕ら以外に誰もおらへんやん…」
吉田も同じことに気づいたらしい…。
「あぁ、そうみてぇだな…」
俺も同意する。
が、突然ガラッとドアが開く。
引き戸のはずなのに、鉄の分厚いギーッという音…。
ありえねぇ…。
俺の直感が危険だって言ってる…。
あけたドアから、5人くらいの武装した兵隊らしき人たちが入ってきた…。
「お前ら…いった「静かにしろ!!」
俺等は二人して体を振るわせた。
「質問はせめて、挙手をしてからだ。」
そういった奴等に対して、手を上げて質問しようとした。
が、「お前!」
という声が部屋中に鳴り響く。
まぁ、部屋と行っていいのかどうか微妙ではあるのだが…。
『お前』という声は、吉田に向かってだったらしく、吉田は挙げていた手を下ろした。
「アンタ達は何者なん?」
俺もそれは聞きたかった。
どうやら、吉田のヤツとは気が合うみてぇだ…。
「私たちは、『BR法』通称バトルロワイアルに参加する奴等の指導係だ。」
「指導係?」
「そうだ。私たちは、このバトルロワイアルに関係する…政府の人間だ。」
政府の人間…?
ちょっと待て、それにBR法…バトルロワイアルってどういうことだ?
BR法って…中3が修学旅行である島に連れて行かれて殺し合いをする、ってアレか?
「つまり…君たちといってもこの教室には2名しかいないのだが…これから殺し合いをしてもらいます。」
「殺し合いやて!?何いうてんねん、自分ら…しかも二人しかおらんてどういうことやねん?」
「煩いぃ!!!」
ビリビリとした空気が流れる。
しかも、吉田と奴等の間限定だ。
が、一人が銃を構えたのに気づいて、俺は走り出した。
「吉田ぁ!!!」
声とほぼ同時にまた、カッて言う何かに刺さった音がした。
吉田は、俺が押したことによって倒れてた。
俺も、吉田を押したことによって倒れた。
あの、カッという音は、兵の中の誰かによって投げられたナイフが壁に刺さった音だった。
「おおきに、三上クン。命拾いしたわ。」
「どーいたしまして…。」
そう言ったあと、俺はアイツらを睨む。
「ふ…ソイツに助けられたな。」
低い声でニィと笑って言う。
「まぁ、いいだろう。ルールを説明しよう。」
ルール説明という言葉がゲームと主張しているようだった。
そして、現実から引き離していた。
ゲームなんかじゃないんだ…。
これは俺らの命が関わる、本当の殺し合いなんだ。
「ルール説明をします。」
「どういうことだ!?ルール説明って何のことなんだよ!!」
叫んだら危ないとか、知ってるはずだぜ、コイツは。
「おい、押さえろよ…」
「なぁ桜庭…。お前だったら…じっとしてられるか?」
普段は冷静なはずの水野でさえも、こんなに同様してる。
「そりゃぁ…じっとしてらんねぇよ。…でもな、死ぬんだぜ?」
「あぁ…。」
一体コイツは何を考えてるんだか…って思う。
「ルールは簡単です。例年と変わりません。が、しかし今回は、一つの教室に二人の人たちに入ってもらっていますね。その2人でチームになってもらいます。」
チーム…?
ってことは、俺とコイツでチームってことか?
「俺と…桜庭が?」
「そうです。あなた方二人でチームとなってもらい、今回はチーム戦で行います。」
コイツとじゃどうなるかわかんねぇ…。
俺の命もコイツの命も…。
「桜庭くん。」
政府の奴等に名前を呼ばれてビクッと体が震えた。
「水野君と二人で頑張ってね。」
女の人は、俺と水野のことを応援してくれたのだろうか?
「あ、つけたしです。二人のうち、どちらかが死んだ場合は、もう一人の人の首についている…コレですね。」
俺の首についている首輪をとっていった。
「コレが爆破されます。センサーがついていますんどえ、誰が死んだか、誰が生き残っているか、誰がどこにいるかなどがわかります。」
そんなモンがついてんのかコレには…なんて感心してる場合じゃねぇ。
俺等がココにいること自体、ダメなんだ…。
危ないってんの…。
普通の顔して見てんじゃねぇよ、水野。
「あぁ、それともう一つ。二人が50M以上離れた場合ですが、そのときも爆破されます。まぁ、警告音が鳴り始めてから50M以内に入った場合は、止まります。とにかく、50M以上離れないでください。」
よくわかんねぇな…。難しすぎ。
「それでは、二人の作戦などをたてる時間を差し上げます。頑張ってくださいね。」
そう言って、奴等は部屋を出て行った。
「さぁ、どーする?」
「別に、どうもしないんじゃない?」
ったく、コイツにはやる気があるのかないのか…。
多分ないだろうけど。
「なぁ…藤代?」
「何?」
「お前って…人殺したことって…ある?」
「は…?あるわけないじゃん?」
「だよな。」
「何?お前はあるわけ?」
「ないって。こんなサッカーが好きで、普通に毎日学校行って、授業受けて、またサッカーやって、飯くって、寝て…こんな普通の…どこにでもあるような生活してたんだぜ?俺等。信じられるか?今から殺し合い、なんて…」
「信じられないって…」
「しかも相手は、政府。そして、今まで俺等の好きなサッカーを一緒にやってきた仲間。」
「………」
怖くなった。俺だって殺し合いはしたくない…。
でも、生き残ってサッカーがしたいんだ。みんなと。
「なぁ…俺等って大丈夫かな?」
「藤代!大丈夫だ、きっと。みんな、何かやらかすぜ?政府をぶっ倒すとかさ!俺等、この壁ぜってー、乗り越えられるから!」
「うん…」
「怖いか…?」
怖くない…わけがない。
俺、スッゲー怖い…。
「大丈夫。藤代。それはお前だけじゃない。…俺も、だから。」
「もうすぐよ。」
西園寺監督と歩いて、堅く閉ざされた部屋へと入った。
「少し待ってて。説明をするわ。」
説明とは何の事かわからない。
これから何が起きるか、も。
「ねぇ。バトルロワイアルって知ってるかしら?」
「え…?あの法律の…」
「そう、BR法。」
バトルロワイアルと聞いて、ココに来る前のことを思い出す。
『今年の対象者は――――』
『バトルロワイアルが明日』
『サッカー関係の』
「これから、殺し合いをしてもらうのよ、あなたには。」
恐怖が襲ってくる。
まるで津波があたしに向かってきているかのように。
「何言ってるんですか!監督!!」
「何って、これからのことよ。期間は3日間。優勝者は二人の1チーム。」
二人!?
「二人って言うのはね、チームを作ってもらうの。チーム戦よ。あ、ちゃんともう一人は決まってるわ」
まるであたしの心を読んだかのように言う。
あなたにももうついているわよね、首輪。…それ、無理にはずそうとしないでね?」
首にあてていた手を急いで下ろす。
「もしかして…」
「えぇ、下手したら爆発するわ。気をつけてね?」
にっこりと笑う監督は、ある扉の前で止まった。
あなたの相手は、この中で説明を受けずに待っているわ。勿論、あなたのことは言ってあるわよ。さぁ、入りなさい?」
言われるがままに、あたしは歩き出した。
扉が開いて、入る。
相手の顔も、どこにいるかもさっぱりわからない…暗闇。
「いらっしゃい。」
ボソッと言った声は、誰のものかさえ、わからない。
「よぉ来たな。待っとったで、ちゃん!」
「嘘…」
「嘘じゃないわよ。」
「監督…」
「あなたの相手はね、昨年度の優勝者…佐藤…もとい藤村成樹くんよ。」
「し…シゲさん!?」
「せやで。ちゃん。久しぶりやなぁ。元気にしとったか?」
「え…まぁ…」
シゲさんって…どういうことなんだろ、一体…
って、しかも藤村って…
それに…昨年度の優勝者!?
「そや。俺は去年優勝しててん。」
「嘘…それにシゲさんまだ中二…」
「せやけどな、年、ごまかしてんねん。ホンマは今、中三やねんで。去年は特別参加やったんや。こんな年、ごまかしとる人やしな。」
って、苦笑いしながら言う。
本当にあたしが聞きたいのはそんなことじゃないの!!
「人を殺したんですか…?」
「当たり前やん…」
「当たり前じゃないですよっ!!」
「せやけど、自分が殺される可能性もあるからこそ、この状況で生き残りたいと思うんやったら、仕方ないことやと思わへんの?」
「そりゃぁ…。でも…でもあたしは…あたしだったら…」
「お前やったらどうすんねん?」
「あたしだったら…誰も、誰も死なない方法を考え出してみせます!」
「そか。えぇで、自分。でもな、全員が生き残れる方法なんてあらへんのや!」
「そうよ、。そんな方法なんてないの。」
「あります!」
表ではそんなこと言ってても、本当はあるかどうかなんて知らない。
ましてや、あたし一人で出来ることなんかじゃない。
「せやったら、それは何や?」
「……」
「ノるもノらんもソイツの自由や。俺らが仕向けることなんて、でけへんねんで。」
「一つだけ…可能性はあります。」
「なんや、て!?自分、本気で言っとるんか!?」
「本気です。でも、まだいえません。」
ただ、一つだけ気になることがあるの。
それはお父さんが政府の人間だったから。
ネックレスをくれた。
『BR法に関して困ったことがあれば、これをあけなさい。それまで開けちゃ、ダメだよ。』
そう言って。
お父さんがあたしにくれた最後のモノ。
今、お父さんは政府の人間じゃない。
この世の人間でもない。
「えぇよ。」
お父さんのことを考えていて、周りの状況を忘れていた。
「それにノったる。俺はにかけるで?えぇんやな?」
コクっと頷いて返事をする。」
「フフッ…楽しみね。頑張ってちょうだい。」
「えぇ。」
そこには、余裕の表情を浮かべられる、あたしがいた。
ココは本部の司令室。
オレは、政府で働き始めて3年目。
まだまだ下っ端だ。
今回のBR法。
初めて知った。
これだけのことを政府がやっているなんて。
オレたちの世代には、オレのクラスじゃなかった。
隣のクラスでバトルロワイアルが行われた。
父さんはその年、指導係としてバトルロワイアルを支えてきた。
そのあと、妙なこと言われた。
『お前!いいな、絶対に政府を止めてくれ!俺じゃもう、どうすることもできない。頼む!の年は…危ない。だから、これ、持っていてくれ。絶対になくすんじゃないぞ。いいな!』
渡されたのは、ネックレス。
気づけばも同じものを首から提げていた。
父さんは、おれ達それぞれに未来を託していた。
「!!」
「は、はいっ!!」
「お前は、こっちだ。」
「はい。」
何をするのも肉体労働が主な仕事。
何か言われるときには命令口調。
正直オレは、政府は大嫌いだった。
でも、父さんのため…父さんの仇をとるため…。
「いいか、。」
「はい。」
「コレを教室へ運べ。」
「あ、はい。」
「西園寺教官には任せてあるが、お前もついていけ。終わったら戻ってこい。」
「はい。」
「いいか、しっかりしろよ。」
「はい、わかってます。」
重要なのはわかってる。
わかってるけど、オレは、こんなことなんかしたくねぇ。
なんたって俺は、このBR法の廃止が目的でココにいるんだから。
なぁ…父さん。
オレも、これでよかったんだよな?
見ててくれよ、父さん。
ちゃんと、アイツのこと助けてやるから。
「ルールは一応以上よ。何か質問があるかしら?」
「俺は特にあらへんよ。」
「あたしもです。」
「そう。じゃあ、移動するわよ。」
「移動?」
「ドコ行くねん?」
「内緒よ。ついていらっしゃい。」
そうしてあたしたちは監督のあとをついていく。
部屋を出ると長い廊下。
進んで行くにつれて、段々と明るくなって行くことに気づいた。
途中、一人の兵隊が監督に話しかけた。
一礼をすると、その兵隊は、ゆっくりと歩き始める。
重そうな鞄を載せた棚を運びながら。
その兵隊は、片手で棚を押しながら、あたしの横に並んだ。
「…っ!?」
「?どないしたん?」
「え、あ、何でもないですよ。」
「、静かに頼むわよ。」
「あ、はい。」
ネックレス…。
お兄ちゃんだった。
今となっては、たった一人の家族。
あたしのたった一人のお兄ちゃん。
ろくな再会も出来ないまま、歩き続ける。
お兄ちゃんは、ずっと、何か紙に書いてる。
小さなため息をついて、お兄ちゃんは、今まで書いていた紙をあたしに渡してきた。
ニッって微笑む顔は昔のお兄ちゃんの面影を残していた。
あれからお兄ちゃんとは何もないまま、暫く歩いた。
監督は、立ち止まり、「ここよ」と言った。
「…!!」
「ちゃん!?」
あたしの名前を呼んでくれる、よく知った顔がそこにはあった。
「静かに。」
その一言で、サッと静かになる。
今までの恐怖をみんな思い知っているからだ。
「さぁ、全員そろったわね。これより、BR法に基づき、バトルロワイアルを開始しようと思います。」
血の気が引いた。
監督の迫力のせいかな?なんて考える。
「その前に皆さん。この世界には、勝ち組と負け組みの2つしかいないことを、知っていますか?」
勝ち組と…負け組?
【残り 36人】