雨の降っている日の午後なんて、面白くないだけだった。

本当は最初、不必要なものだった。







雨の日の午後







今日も雨。

梅雨の季節ということもあって、最近は毎日のように雨が降っている。

窓から、真っ暗な空を見上げて、雨が降るのを見ているのは、

は、雨なんて、必要ないと思っていた。

「うっわ〜凄い大降りしとるんやなぁ」

の隣に一人の男の子が来る。

「ぁー、傘持っとったかな〜?」

は、隣の子の顔を見る。

そこには、目立つ金髪にピアス。

そして、特徴的な関西弁。

誰からも人気で、軽い、佐藤成樹。

話しかけやすいはずなのに、は少し苦手だ。

〜今日、傘入れてや〜?」

「うん・・・」

は嫌そうに返事をする。

「ほな、先帰らんといてなー?」

「はい、はい」

ふぅと、ため息をついて、は教室に戻った。



放課後となり、帰宅の時間となる。

更に雨は強くなり、風も吹き出した。

「うわ〜強ぉなったなぁ、雨。」

またもやシゲがに独り言のようにして、話しかけた。

「うん・・・ねぇ、シゲ。」

「ん?何や?」

は、久しぶりにシゲの名前を呼んだな、と思う。

「あたし、まだ部活があるんだけど・・・?」

「は!?何言ってんねん!この雨やで〜?部活はないやろ〜」

「アホ!あたし、吹奏楽部なの。雨でもあるんだっての。」

「関西人にバカはキツいんやで〜?」

「知らない。」

帰るしたくをして、部活に行こうとするの腕を、シゲが掴んだ。

「待てや、

「嫌。離してよ、シゲ。あたし部活があるの。ほら、傘かすから、先に帰ってていいよ。」

「何言うてんねん!最後まで部活しとったら、真っ暗やろ?」

「そりゃぁ、そうだけど・・・。既に真っ暗だから、変わんないよ。」

「ちゃうわ、ボケ!一人で帰らしたら、危ないやろ?せやから、待っとく!」

「時間、かなりかかるよ?」

「えぇ。吹奏楽部、見学に行くさかい!えぇやろ?」

「駄目。」

「は!?何でや?」

「恥ずかしいじゃん!」

「そんなことあらへんって。」

「嘘。あたしは恥ずかしいの。」

来ると言うシゲに対して、断る

が見られたくない理由とは・・・?

「行くからな、俺。」

ずっとの腕を掴んでいるシゲは、絶対に行くように言っている。

「駄目だからね、シゲ。それじゃ。」

は、シゲに掴まれていた腕を振り解いた。

そして、一人で歩いて行く。

そのときの、の顔は・・・真っ赤だった・・・。



「「「こんにちわー」」」

後輩に挨拶される。

ちゃん、やっほー!」

「ぁ、ちゃんだぁ!」

友達も、来た事に気づいたらしい。

「うん・・・」

音楽室の窓を見上げてみると、真っ暗な空を見つめる。

何故か、誰かの顔がの頭に浮かぶ。

でも、誰だかは、にはわからなかった。



部活も始まり、練習を始めた。

が、途端に騒がしくなる。

は、廊下に出て、騒がしい理由を調べようとした。

すぐに、理由はわかった。

「ぁ、〜見学に来たで〜」

シゲだ。

「・・・・・・・」

唖然として、言葉が出ない。

「・・・何・・・で来、た、のよ・・・」

「ん?興味があったからやけどー?」

あれほど来るなと言っていたの元に来た、シゲの度胸は凄い。

そして、シゲの人気は桜上水中の中では、かなりのもので沢山の人が集まり始める。

先輩」

いきなり声をかけられ、少しビクッとする。

先輩と佐藤先輩って、付き合ってるんですか?」

「は!?」

「そやで〜」

後輩にこんなことを聞かれるとは思っておらず、ビックリしたのだが、それをスパッと答えるシゲにもビックリした。

「アホ!バカ!違うでしょ!」

は、シゲをグーで殴ろうとした・・・が、シゲは交わす。

「せやから、関西人にバカはキツいんやで!?」

「知らん、そんなん。」

「うわ〜、シゲちゃんショックやー」

「キモい。」

「もっと、シゲちゃんショック。」

ふざけて言う。

「何やってんの、馬鹿。」

は、関西人にアホはキツいと聞き、アホを馬鹿に直した。

「まぁ、えぇわ。帰るで?」

「は?まだ終わってな・・・」

「コイツ、かりるで〜。返さんけど。ほな、みなさんさよ〜なら〜」

「ちょいま・・・」

再び腕をつかまれ、引っ張られる。

流石に、力では敵わないであろう。

友達にも後輩にも見捨てられ、には、なすすべなし・・・。



「ったく・・・」

は一人でブツブツ何か言ってる。

近くに居る人でさえ、聞き取れてはいない。

何を言っているかは、本人にしかわからないだろう。

「何いってんねん、。」

「べつに!!」

はあきらかに怒っている。

「何で怒ってんねん。」

「シゲが無理矢理連れて帰ろうとするからでしょ?」

「許してや、!俺等の仲やん?」

「あたし等の仲って、何があるってのよ。」

「従兄弟やん、俺等。」

「そうだけど、従兄弟だからって許す気にはなれないって・・・。あたし、仕事あったのに・・・」

シゲとは、ようやく下駄箱に来た。

従兄弟だ、と知っているのは・・・

「シゲ!!」

多分、コイツだけだ、とは思う。

「ぁ、たっちゃん!」

「ぉ、タツボンやん。」

二人して、違う呼び方で呼んでいる相手・・・

「二人とも、やめてくれないか?その呼び方・・・」

桜上水中サッカー部キャプテンMFの水野竜也だった。

「「いいじゃん!(ええやん!)」」

「ったく・・・」

水野は呆れている。

だが、いつものことで、水野も慣れたはずだ。

「またお前等、一緒に帰るのか・・・」

「またやて〜?そんなことないやろー」

「そうそう!毎日一緒に帰ってるわけじゃないんだから!」

「お前等・・・似てるな・・・」

「「はぁ!?」」

息ぴったりであった。

「ほら・・・みてみ・・・」

水野が言葉をなくす。

見ている方向には、とシゲが言い合っている姿があった。

水野は呆れ、二人をほおっておき、一人、雨の中傘をさして帰っていった。



「・・・・って、あれ?たっちゃん、帰ったー?」

「ぁ、そうみたいやな。」

「あたしら、何分くらい言い合ってたんだろ・・・?」

「今、何時や!!?」

シゲが急に思いついたように言う。

「5時くらいだと思う・・・けど・・・?」

「マジか!?・・・はぁ、もうあかん・・・」

「何が?」

落ち込んで、しゃがみこむシゲに、が声をかける。

「今日はよぅ帰らなあかんかったんやけど、忘れとった・・・」

「あっそ・・・ドンマイ。」

「うわ〜ちゃん、酷いで〜?」

「うっさい。」

「やっぱ、酷いわ・・・」

シゲがボソッとつぶやく。

「帰るよ、シゲ。」

「いきなり話変えるんかい・・・」

「何?」

「いや・・・なんでも・・・」

「早く帰んないといけないんでしょ?」

「そうやけどー・・・」

「だったら、早く帰ろ!!ねっ?」

ニッと笑うにシゲの顔が微妙に赤くなったのがわかる。

・・・」

雨の音でかき消されるシゲの声。

「ほら、帰ろ!」

シゲの気持ち・・・いつ伝わるだろうか?



「・・・・ねぇ、シゲ。傘持ってる?」

「いや、持ってへんけど・・・?」

「ゴメン、あたしも持ってなかった・・・」

「せやったかー・・・」

二人とも傘を持っておらず、結局ぬれて帰ることに・・・



「ゴメンねー、シゲ。」

歩き出してすぐ、が謝る。

「は?何でいきなり謝るん?」

「だって、傘・・・」

「あぁ、えぇってホンマ!」

「でも・・・」

「気にせんといてん!気にしてたら、怒るでー?」

「ぁ、うん・・・」

「あ!そや、、寒くあらへん?」

「んーこの頃の気温と比べたら、寒いかなー?」

「せやろ?せやから、コレ、かしたるわ。」

そういって、シゲが制服を取り出す。

「あんた・・・今の時期に何で制服があるわけ?」

「ん?何となく・・・?」

「疑問形にして、あたしに聞かないで・・・」

「まぁ、気にせんとき!」

「はいはい・・・」

その間に、シゲはに制服を着せようとする。

「はぁ?何してるわけ・・・?」

「寒い、言うたやん、。せやからかしたるて・・・」

「いいよ。」

「何でや!?」

「だから、いいの!」

「折角、に着て貰おう思うたんに・・・」

「シゲが着なよ。シゲの制服なんだし。」

が着ぃへんのんやったら、俺も着ぃへんよ!」

「・・・二人じゃ着れないって・・・」

「えぇ突っ込みしとるで、!」

「そりゃぁ、どうも・・・。」



更に雨が降り出す。

「うわー、ビショビショやん・・・」

「やっぱ、制服着たほうがいいよ。」

「そうかもしれへんけど、一人濡らして変えるわけにはいかんやろ?」

シゲの言葉にの顔が赤くなる。

「なんや〜?顔、真っ赤やで?あ!もしかして俺に惚れたとか?」

「バカ!冗談言うな、アホシゲ!」

本当はわかっているはずのなのに、なのに、紛らわそうとしてしまう。

「そっか、そっか。」

シゲは、どこか悲しそうに笑ってる。

は、どこか変だな、と疑問を持つ。

「あ、ゴメン・・・。」

は、何か、思いついたように言う。

「は・・・?」

「え?バカって・・・」

「あぁ、それな。えぇよ、そこまで気にせんでも。」

シゲはニィと笑ってみせる。

「それと・・・さっきの・・・嘘、ね。」

「嘘て・・・」

「本当は、シゲに惚れた・・・ううん、惚れてる・・・から・・・」

再びは真っ赤になる。

「は・・・嘘!?」

「かなーり、マジ。」

「うわっ、信じられへんわ・・・。シゲちゃん、めっさ嬉しいで〜」

そういってシゲはに抱きつく。

「やめんか、このバカ。」

ぁ、と口をおさえる

「関西人にバカはキツいて・・・」

「ゴメン・・・」

「えぇよ。やから、許したる!」

「ぁ、ありがと・・・」



「あ〜明日も雨降らへんかなぁ?」

「え!?嫌じゃん。ダルいし・・・ジメジメするし・・・」

「せやけど、部活が休みになるやん!」

「それは、シゲ達だけ。あたしらは、中だから、あるの。」

「せやったら、俺が迎えに行ったるわ!ずっと、待っとったる!」



本当は、雨の日の午後なんて、嫌いだったんだ。

でも、君が迎えに来てくれるなら・・・。

あたしはきっと、雨の日の午後が、ちょっとだけ、楽しみになると思うんだ。

君と過ごす雨の日の午後・・・

それは、あたしにとって、凄く特別なもの。

流石に、降り過ぎは・・・嫌・・・だけど、

明日はまた、雨が降ると・・・いいな。











――――――――――――――ちなみに、次の日は、晴れだったと言う。